訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました

 ところが、杏璃の双子の兄が実の兄妹ではなく従兄弟だと知り、感情をコントロールできずに暴走してしまった。

 杏璃に抱いているこの感情こそが、恋愛感情であると思い知らされたのである。

 家柄や見かけに擦り寄ってくる女性に対して嫌悪すらしていた。そんな女性に対して、初めて芽生えた感情だった。自分には縁のないものだと思っていた感情だ。それなのに――

(……また、見かけしか見てもらえないのか……)

 なら、整形でもして推しと違う顔になれば、何かが変わってくれるだろうか。

 少なくとも、目の前にいる自分に目を向けてくれるはずだ。

(そんなことして何になる? 余計虚しくなるだけだろ)

 ――それでも、こんなに苦しい思いはしなくて済むかもしれない。

 だが、そうなれば、杏璃のメリットがなくなる。杏璃と一緒に過ごす理由も。

 ――そう考えると、考えただけで、胸が苦しくて堪らない。

(くそっ……! どうすりゃいいんだ)

 翌週には結婚式を控えているというのに、央輔は自分ではどうにも昇華しきれない感情を持て余していた。

 ちょどそこに、友人二人が「独身最後の酒盛りだ」と言って、自宅に押しかけてきたのだ。

 医大生からの付き合いである山科(やましな)宇田川(うだがわ)は、ソロ活婚のことまでは知らない。

 縁談とはいえ、央輔が身を固めたいと思う相手と巡り逢えたことを喜び、祝ってくれていた。

「もうすぐ結婚するっていうのに、浮かない顔してどうした?」

 そう言ってインテリチックな眼鏡越しに窺ってくるのは山科だ。

 大学病院で形成外科医として勤務している山科は、真面目で人当たりもよく、纏っている雰囲気も穏やかで柔らかい。昨年教授の娘と結婚し、子どもにも恵まれたばかりだから余計かもしれない。

 うっかり何でも愚痴りそうになるので気が抜けない。

 愚痴れば最後、酒のつまみにされるのがオチである。

 ――アニキャラに嫉妬しているなんてこと、言えるわけがない。

「……いや、別に」

 何でもないふうを装った央輔の肩に、すっかりできあがっている宇田川が寄りかかってくる。

「あっ、ジェネレーションギャップってやつか? そんなもん、どうでも良くなるくらい、これまで培った大人のテクニックで骨抜きにしてやれ」

 脳外科専門医である宇田川は、臨床経験を積むため大学病院の救命救急で激務を熟している。体育会系のお調子者で酒にも強い。だが、彼女と会う暇もないらしく、相当鬱憤がたまっているのだろう。

 完全に酒に呑まれやさぐれモードである。

(アニキャラに陶酔しきってる人間を骨抜きにするテクがあるなら教えてくれ)

 内心で悪態をつく央輔の代わりに、山科が正論で切り返した。

「骨抜きにしたところで、一時のもんだし、何の解決にもならないだろ」
「……確かに、そうだよな」

 山科に賛同した央輔の元に再び宇田川の声が届く。

「好きな相手とのセックスは違うって言うだろ? だから、特別な相手だって思えるくらい身も心も骨抜きにして、もっと好きにさせろって言ってんだよっ」

 得意げに語っていた宇田川だったが、そこまで言うとテーブルに突っ伏していびきをかき始めた。

「あーあ、しょうがないなぁ」
「おい、寝るならソファにしろ」
「ん、ん~」

 央輔が酔い潰れた宇田川の肩を揺すっていると、山科が呟くように言う。

「宇田川の言ってたこと、あながち間違ってないよな。相性にもよるだろうけど。よく、好きな相手とのセックスは違うって言うだろ? アレだよ、アレ」

 そう言われても、これまで恋愛感情を抱いたことのない央輔には、想像もつかない。

 都市伝説並みに信じがたいものである。

「……そんなの、眉唾だろ」

 央輔が即座に吐き捨てると、山科が意外なことを口にする。

「いや、確かに違ったんだよね。ほら、俺、奥さんに一目惚れしてただろ。奥さんのこと知れば知るほど好きになってさぁ。身も心も満たされるって、こういうことなんだなぁって」

 不覚にも、羨ましいと思ってしまった。

 けれど、央輔はおくびにも出してなるものかと無表情を決め込んだ。

「のろけかよ」

(こっちは、相思相愛だったオマエとは違うんだよ!)

「あれ? 怒ってる?」

 だが、どうやら心の声はだだ漏れだったようである。

 以前、杏璃のことで、洋輔にも同じように指摘されたことを思い出す。

 あの時は、付き合いの長い洋輔だからだと思い気にもとめなかったが……

 やはり、杏璃のことになると、感情が制御できなくなるようだ。

(思い知ったところで、どうにもならないってのに、どうすりゃいいんだ……)

「……別に」
「ははっ、素直じゃないなぁ。けど、見合いしてから変わったよな。表情が豊かになって、人間らしくなったって言うか、可愛くなった」
「はぁ!?」
「ほら、そういうとこだよ」
「……意味がわからん」

 こうして事あるごとに、杏璃への恋情を自覚させられたところで、どうにもならない。

 ――だったら、こんな感情なんて、なかったことにしてしまえばいい。

 央輔は、ここぞとばかりに揶揄ってくる山科にすっとぼけながら、そんなことを考えていた。

 まさか自分が、杏璃との初夜で、都市伝説でしかないと思っていた体験をするとは思いもしなかった。

 ましてや、こんなにもままならない現実が待っていようとは、夢にも思わなかったのだ。
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