訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
 それを央輔は、仕事で疲れているのだと勘違いしたらしく……。

 「疲れてるようだし、外食にしないか」

 提案されるまま央輔の行きつけだという銀座の中華レストランで夕食を済ませることとなった。

 ちなみに、いつもはどうしているかというと――。

 お互い仕事をしているので、家事は基本ハウスキーパーに任せている。

 だからって、家事がまったくできないわけではない。

 一人暮らしが長かった央輔は普通に料理もできるし、杏璃も伯母の手伝いをしていたので一通りの家事は問題なくこなせる。

 だが、ソロ活婚であり普通の結婚ではない。もとより干渉しないという約束だった。

 しかし、諸般の事情により、央輔が溺愛モードになってしまっている。しかも絶倫。

 というわけで、平日の朝は、一緒に朝食の準備をしている。けれど、央輔の帰宅時間が不規則で、ゆっくり顔を合わせられるのは、朝と寝るときぐらいだ。

 休日に至っては、やんごとなき事情により央輔が家事諸々を担ってくれていた。

 むろん、元推しのイベントごとがあるときにも、もれなく央輔がついてくる。

 おかげで、央輔のいない部屋で一人過ごすのが寂しくてどうしようもなかった。

 そしてそのたびに、思い知らされるのだ――央輔への想いがどんどん膨らんでいることに。

 だからこそ、杏璃は帰るのを渋っていたのである。

 店に到着し案内された個室は、有名デザイナーが手がけたエキゾチックかつラグジュアリーな空間だった。

 中国の宮廷を思わる厳かな雰囲気を味わいつつ、北京ダックをはじめとする創作料理を堪能した。もちろん愛おしい旦那様と一緒に。

「わぁ! 凄い。どのお料理も綺麗だし、美味しそう!」
「ほら、これも美味いぞ」
「本当だぁ! とっても美味しくて、ほっぺが蕩けちゃいそう」

 推しを愛でながらの豪華な晩餐に、杏璃の情緒は大忙しだった。

 そのせいか杏璃は帰りの車中で転た寝をしていたらしい。

「杏璃」
「……ん?」

 杏璃は推しの声に名前を呼ばれ夢の世界からようやく抜け出せた。

 けれど、寝ぼけているので状況までは把握できない。ぽーっと視線を彷徨わせていると、推しの顔がゆっくり近づいてくる。

(あれ? もしかしてこれって……央輔さんとお見合いした日に見た、夢の続き?)

 杏璃がそう考えるのも無理はない。央輔だと思っていた人物がアーサー王子だったのだから。

 だが驚いている場合ではない。以前見たあの夢同様、杏璃は天蓋付きのベッドの上でアーサー王子に組み敷かれているのだから。

 ハッとした杏璃は大慌てで飛び起きた。そして縮こめた身体を両手で抱きしめるようにして身構えた。

 「推し変したからって、そう警戒するな。寂しいではないか」

 確かに、元推しではあるが、どうも様子が違う。杏璃がアーサー王子から央輔に『推し変』したのを知っている風な口振りだ。

 ――夢だというのに。一体何が起こっているのだろうか? まったくもって理解が及ばない。

「だが、アンリの気持ちもわかる。俺にも愛する妻がいるからな」
「……ど、どうして……」

 混乱のあまり思わず声を漏らした杏璃に、鼻白んだ顔のアーサー王子から不服そうな声が返ってくる。

「愚問だな。過去とは言え、あんなにも夢中になっていたというのに、もう忘れたのか?」
「――あっ!」

 その言葉で、杏璃は元推しの特殊能力を思い出した。特殊能力というのは、触れた者の過去と未来を見通す力のことだ。

「思い出したようだな」
「は、はい。……でもどうして私の夢に」

 思い出したものの、この状況に思考が追いつかない。謎は深まるばかりだ。
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