訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
「? 央輔さん?」

 杏璃はわけがわからず首を傾げるしかない。

 キョトンとしたままの杏璃の身体からゆっくり身を起こした央輔が困ったように笑みを零した。

「推し活する杏璃の気持ちがわかった気がする」

 唐突にそんなことを言われても意味がわからず益々困惑するしかない。首を傾げて目をパチパチする杏璃の口からも当惑に満ちた声が漏れていた。

「……えっ……どういう」
「杏璃が可愛すぎて、眩しいぐらいだ。おねだりなんかされたら俺の理性なんて木っ端微塵だ。これまでの俺を見てればわかるだろ」 
「――ッ⁉」

 まさか央輔からそんな台詞が飛び出すとは思わず、杏璃は絶句し固まった。

 眩しいのは央輔のほうだと反論したいところだが、それどころじゃない。これまで央輔に散々翻弄されてきた『あれこれ』を思い出してしまったせいだ。

 収まりつつあった羞恥までが込み上げてきて、顔に熱が一気に集まってくる。おそらくどこもかしこも真っ赤になっているに違いない。

 隠そうにも、駐車場の照明が均一に保たれているので誤魔化しようもない。しかも、シートに手をついた央輔によって退路を断たれてしまっている。恥ずかしいのに、ゆだった顔を央輔はじっと見据えて逸らそうとしない。逃げ場を封じられた杏璃は、央輔の美貌を凝視したまま動けずにいる。

 そんな杏璃の頬を大きな手で愛おしそうに触れてきた央輔があからさまな台詞を囁いた。

「だから煽るな。杏璃と子作りしてる所なんて、誰にも見せたくない」

 『子作り』というワードにギョッとした杏璃は大いに狼狽える。

 確かに『ずっとこうしてたい』とは言ったが、そういうつもりで告げたわけじゃない。想いが通じた央輔とただ純粋にくっついていたかっただけで、不埒な意味合いなんてなかった。

 ――神に誓ってもいい。

「! こ……子作りってっ。べ、別にそういう意味じゃ……!」

 慌てて言い返した杏璃の顔を更に身を乗り出してきた央輔が覗き込んでくる。

 央輔の瞳には、甘さだけでなく、欲情の色がありありと見て取れる。大人の色香を纏った央輔の醸し出す雰囲気からも――『杏璃が欲しい』という切実な想いが伝わってくる。

 推しからそんなふうに求めてもらえて嬉しくないわけがない。とはいえ羞恥も捨てきれない。

「なら、どういう意味だったんだ?」

 どこか楽しそうな表情の央輔に意地悪な口調で問いかけられ、杏璃はしどろもどろだ。

「た、ただ……央輔さんと……」
「ん? 俺と、どうしたかったんだ?」
「……く、くっついていたかっただけですっ」

 杏璃は目をギュッと瞑って叫ぶようにして訴えた。すると杏璃の身体が強い力で引き寄せられて、気づけば央輔の膝上で横抱きの体勢で抱き締められていた。驚いて目を開いた瞬間、額にチュッと口づけられ、杏璃は意図せずビクついてしまう。

「意地悪して悪かった。けど、そうでもしないと、自分を抑えられそうになかったんだ」

 杏璃が怯えたと思ったのだろうか。腕の力を緩めた央輔がすかさず謝ってきた。

「……もう、骨切り術のシミュレーションなんかじゃ太刀打ちできないしな」

 続け様に放たれたこの呟きの意味は、杏璃にはまったく理解できなかったけれど……。

 どうやら央輔は、杏璃のために、何とか理性を抑え込もうとしてくれていたようだ。

 意識した途端、密着した互いの身体を通して、央輔の匂いや体温だけでなく、身体的変化までもが伝わってくる。

 確かに、央輔の言うように、密着した杏璃の腰に、央輔が雄である証までもがグリグリとあたって、誇らしげに主張している。

 男性にとって、マテの状態は、相当辛いものであるというのに――。

 それほどまでに、杏璃を大事にしようとしてくれているなんて、嬉しくてどうしようもない。

「は、恥ずかしいけど、央輔さんとなら平気です。だからもう我慢しないでください」
「だから、そういう可愛いことを言うのは帰ってからにしてくれ」

 想いのままに言葉を紡いだ杏璃の唇は、そう言ってきた央輔のそれにより噛みつくようにして奪われてしまう。

「――ん、んんっ……ふぅ」

 性急に挿し入れられた央輔の熱い舌に口腔内をねちっこく舐め回され、杏璃の身体からくたりと力が抜けてゆく。

 ほどなくして、情熱的なキスによっていとも容易く骨抜きにされた杏璃は央輔の胸に縋りついた。同時に、つむじにチュッとキスを降らせた央輔が念押ししてくる。

「わかってくれたか?」

 杏璃は、今度こそおとなしく素直にコクコクと頷いて応えた。

 それからしばらく、諸々が落ち着くまで央輔は、杏璃の願い通り、くっついたままでいてくれたのだった。
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