訳あって、推しに激似のクールな美容外科医と利害一致のソロ活婚をしたはずが溺愛婚になりました
推しとの甘く幸せなひと時
 翌朝、目覚めたばかりの杏璃は温かな幸福感に包まれていた。

 結婚してから、央輔と寝室を共にしているので、見かけはいつもとなんら変わらない休日の朝だ。

 これまでは、央輔の腕の中で目覚めるたびに、虚しい想いに苛まれていた。一人で過ごすよりも、二人でいる時間のほうが楽しくなればなるほど、虚しさは膨らむばかりだった。

 けれど、央輔と想いが通じ合って、正真正銘の夫婦となった。

 もう何の憂いもない。ただただ幸せで、それが何より嬉しくてどうしようもない。

 杏璃は心が舞い踊るかのような感情を抑えられず、央輔の厚い胸板に頬を擦り寄せむぎゅっと抱きついた。

 そして央輔の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、微睡みのような幸福感に酔い痴れる。まるで天国にでもいるような心地がする。

「あ~、とっても幸せ。天国にでもいるみたい」

 あまりの心地よさに心の声がだだ漏れになってしまうが、杏璃は気づいていない。

 央輔がまだ眠っていると思っていたのだから、無理もないだろう。

 多幸感に浸っていた杏璃の身体がふいにコロンと転がされて、見る間に組み敷かれていた。

「朝からそんな可愛い言動で俺を煽って、どうする気なんだ?」

 不敵な笑みを浮かべた央輔にそう言って見下ろされ、ようやく杏璃は我に返る。

 だが、煽るつもりのなかった杏璃には答えようがない。それよりも、自分の言動を『可愛い』と感じてくれているなんて――

(どうしよう。嬉しすぎて、頬が勝手に緩んじゃう……!)

 杏璃はなんとか今の気持ちを伝えようと、央輔に向けてまっすぐ言葉を紡ぐ。


 「煽るなんて……そんなつもりじゃ。でも、大好きな央輔さんをそうさせてるなんて、とっても嬉しいです」

 すると何やら意味ありげに目元を眇めた央輔から吐息混じりの言葉が返された。

 「そんな可愛いことを言って、俺を煽るだけ煽っておいて、また寝落ちなんかしないでくれよ」
 「寝落ちって……」

 妙な引っかかりを覚えた杏璃はオウム返ししかけて「あぁっ!」と、思い至る。

 「やっと思い出したか。おかげで俺は寝た気がしない」

 そこに央輔からあくび混じりの悩ましげな声音が届いた。たちまち杏璃は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 というのも、昨夜は帰宅してそのまま寝室へ直行する勢いだったのだが……。そうなると、央輔に翻弄されてすぐにわけがわからなくなってしまう。杏璃は何とかそれを避けたいと考えた。

 何故なら、もっともっと央輔のことを知りたかったし、央輔にも自分のことをもっと知って欲しかったのだ。

 これまでは、〝利害一致のソロ活婚〟だったため、互いにどこか遠慮していたところもあった。どこまで踏み込んでいいかもよくわからず、当たり障りのない仕事のことや推しのことぐらいしか話していなかったからだ。

 けれど、央輔と想いが通じ合って、正真正銘の夫婦になれたのだ。これからはたくさん話をして、共に人生を歩んでいく伴侶として絆を深めていきたい――。

「これから本物の夫婦になるためにも、央輔さんのこともっともっと知りたいです」

 杏璃がそう言って切り出したことにより、リビングのソファで央輔と仲睦まじく寄り添いながら色んな話をすることとなった。

 子どもの頃の話にはじまり、家族のこと、友人のことなどなど……尽きることはなかったように思う。

 央輔は、近頃お気に入りのクラフトジンをトニックウオーターで割って輪切りのレモンを添えたグラスを片手に。アルコールに不慣れな杏璃は、グラスに注いだスパークリングウオーターをお供に。……していたはずが、そこからの記憶がない。おそらく、話しているうちに寝落ちしてしまったのだろう。

 ――自分から言い出しておいて、なんてことを……!

「ごめんなさい」
「……あ、いや。俺こそごめん。初夜で酔った杏璃が甘えてくるのが可愛かったものだから……また甘えてくれるかもと。呑ませた俺のせいだ」

 シュンとしながらも謝罪した杏璃に、央輔がバツ悪そうに謝ってくる。

 記憶は曖昧で呑んだ覚えはないが、そういえば何かの流れで「呑んでみるか?」と問われた気がする。

 ――どうやら、酔った杏璃に甘えて欲しくて、お酒を勧めた央輔の自業自得だったようだ。

 これには唖然としてしまったが、動機が可愛らしかったのでさらっと水に流すことにした杏璃だった。

 その後も、杏璃のお腹の虫が騒ぎ出すというちょっとしたアクシデントに見舞われたりもしたが、幸せな心地で着替えを済ませた杏璃は央輔と一緒に朝食の準備に取りかかった。
< 50 / 69 >

この作品をシェア

pagetop