一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています

真宮さん

「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

 彼がそう言うのなら、深く詮索するのはやめよう。

「良かったです。じゃあ、お元気で」

 軽く会釈をして帰宅しようとすると
「田澤さん!お礼がしたいんです。ご飯でも行きませんか?」
 真宮さんに引き止められた。

「いえ。十分です。この間のタクシー代も払ってもらっちゃったので」

 真宮さんが嫌いなわけじゃない。
 ただ、今は一人でいたいという気持ちが強くて。愛想笑いとか、できなさそうだ。つまらなそうにしてたら、真宮さんにだって失礼だよね。

「俺、田澤さん、《《小春さん》》にこの間、本当に助けられて。だからその分もお礼がしたいんです。かばってもらったの、はじめてで……。お願いします」
 綺麗に九十度、頭を下げられた。
 下の名前、覚えてくれていたんだ。

「ちょっと!真宮さん!」

 人通りも多い駅だから、チラッとこっちを見てくる人もいる。恥ずかしい。だけど、真宮さんがきっと勇気を出して伝えてくれた言葉に心が動かされた。

「わかりました。ご飯、行きましょう」

 私が返事をすると
「ありがとうございます」
 一度頭を上げてくれてのに、もう一度深く頭を下げる彼の姿を見て笑ってしまった。

「小春さん、何か食べたいものありますか?」

 ご飯を食べるつもりなんてなかったからな。
 どうしよう。あ、せっかくだから一人じゃ行きにくいところに付き合ってもらおうかな。

「予約してないんで行列かもしれないんですが、行きたいカフェがあって」

「どこですか?」

 私がお店の名前を伝えると、真宮さんがスマホを取り出し、調べている。

「場所、わかりました。行きましょう」

 スッとジャケットが入っている紙袋を彼は代わりに持ってくれた。
 荷物を持ってもらうの、久しぶりかも。

「小春さん、スイーツとか好きなんですか?」

「はい。果物が好きで。行きたいカフェ、フードを頼むと果物食べ放題になるみたいで。行ってみたかったんですけど、一人じゃ行きづらくて」

 そうだ。真宮さんはスイーツとか、大丈夫かな。

「真宮さん、スイーツとか食べれますか?」

 見かけで判断しちゃダメかもだけど、甘い物食べなさそう。

「食べますよ。珈琲と甘い物の組み合わせが好きで。男一人じゃお店に入る勇気がなくて、買ってきて食べたりします」

 そうなんだ良かった。

 お店に着くと、案の定かなりの行列だった。 

 どうしよう。こんなに待ってる。真宮さんを行列に付き合わせちゃ申し訳ない。

「やっぱりやめましょうか。人気店だから混んでますよね。違うお店に行きましょう?すみません」

「俺は大丈夫です。小春さんとゆっくり話せる時間ができて良かったと思ってます。オンラインじゃもう予約を受付ていなかったので、入口に何かシステムがあるのか見てきます。待っててください」

 彼はそう言うと階段を下り、地下にあるカフェへ入って行った。
 真宮さんって、こんなにはっきり言う人だったの?
 飲み会の時とは違う彼の雰囲気に驚く。
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