一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています
「すみません」

 心の中では申し訳ないなんて思ってないけど。一応、謝ろう。

「斎藤先輩、私、お支払いしてませんでした。飲み会代、いくらですか?」

 それだけはちゃんと謝りたかったんだ。

「それはいいよ!藤本さんたちが支払ってくれたから。さすが大手製薬会社だよね。身につけている物とか、スーツもブランド物だったよね。ハイスぺな彼氏、憧れるな」

「そうですか」

 どんなにハイスペックな人でも、あんなに高圧的な人だったら私は嫌だ。

「そういえば、真宮さんだっけ?とはどうなったの?ああいうのがタイプだったら早めに言ってくれれば良かったのに」

 まさか私が真宮さんがタイプだから連れ出したと思ってるの?

「真宮さんとは何もありません。あのあとすぐに帰りましたから」

「えー。そうなの!てっきり、お気に入りだから二人で抜け出したかと思った」

 そっちのシチュエーションだったら、なんて嬉しいんだろう。

「真宮さんに対する藤本さんの態度が酷いなって感じて、見ていられなくて」

 斎藤先輩たちは、何も感じていないの?

「そう?あんなの冗談でしょ。小春ちゃん、まさか真宮さんがパワハラされてるとか思ったの?勘違いしすぎ。藤本さん、ああ見えて優しい人なんだから。変な評判広めないでよ」

 あの状況を見て、よく優しい人なんて言えるな。まさか……。

「先輩、藤本さんと付き合うんですか?」

 私の発言に、ムッと口をへの字に曲げ
「あともうちょっとなの!夜は一緒に過ごしたから!向こうからの連絡待ち!邪魔しないでよ」
 始業のベルが鳴ったのを聞いて、斎藤先輩は私の席から離れて行った。

 夜を一緒に過ごしたってことは、セックスしたけど付き合ってはないってこと?ワンナイトラブってことか。斎藤先輩ともHOPE製薬会社の人たちとも、もう関りたくないな。

 その日の夜――。

 ピコンとスマホが鳴った。

「真宮さん?」

 タップしてメッセージを開いてみると<お疲れ様です。今度の土日、どちらか都合はいかがですか?ジャケットをお返ししたいです>
 真宮さんからだ。

「土日か」

 予定はない。日用品の買い物と掃除でもしてゆっくり過ごそうと思っていた。

<どちらでも大丈夫です。真宮さんの都合に合わせます>

 返信すると<土曜日、十一時はいかがですか?>私は真宮さんと、土曜日にこの間の居酒屋近くの駅で待ち合わせをすることになった。

 土曜日ーー。
 約束の時間に駅で待っていると、目の前に真宮さんが見えたため手を振る。真宮さんも控えめに手を振り返してくれ、駈け寄ってくれた。メガネに黒髪の長髪、前髪が長めは変っていないけれど、私服は清潔感のある男子って感じだ。

「ありがとうございました」

 紙袋に入ったクリーニングされたジャケットを渡される。

「いえ。こちらこそ、ご丁寧にありがとうございました」

 これで彼と会うこともないだろう。
 そんなことを心の中で思いながらも
「あれから藤本さんとか、他の先輩とは大丈夫ですか?」
 あのあとのことが気になる。

 私を誘った斎藤先輩たちは<藤本さんたちから連絡がこない>なんて騒いでいるのを耳にしているし、私も特にあれから責められることもなかったから、真宮さんのことが心配だった。
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