一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています
「みなさん、お疲れさまです。今日はHOPE製薬会社から真宮副社長が見学に来てくださいました」

 えええええっ。
 今、副社長って言った?真宮さんって人事部の人じゃなかったの?
 勝手に想像していたけれど、まさか副社長だったなんて聞いていない。

 ん?あれ、副社長だったら藤本さんにあんなペコペコしていないよね。 
 後輩って言っていたし。どういうこと?

 頭の中は変わらずパニック状態だ。

「はじめまして。真宮です。今日は突然の訪問、申し訳ございません。見学をさせていただきますが、お仕事の邪魔にならないようにしますので、いつも通り業務にあたってください。よろしくお願いいたします」

 絶対、真宮さんだ。声が同じだもん。
 冷や汗が流れる。
 私のこと、気づいているよね。目が合ったもん。怒っているんだろうな。連絡もブロックしちゃったし、根に持ってたらどうしよう。最後のホテル代とか払ってない。
 
 部長と真宮さんの挨拶が終わり、社員は業務に戻った。

<真宮さんってめっちゃかっこ良いね。左手にまだ指輪してないし、結婚とかしていないのかな。三十代って聞いたけど>
<忙しくて婚期逃してるとか。いいな、HOPE製薬だなんて将来安泰じゃん>

 女性社員の小声があちらこちらで聞こえてくる。
 私は気づいていないフリをしよう。
 そのうちに違う課に行くと思うから、それまでの辛抱……。

「田澤さん、ちょっと良いかな?」

 振り向くと部長と真宮さんが立っていた。

「はいっ!」

 思わず立ち上がり、頭を下げながらそのまま下を向く。

「キミ、真宮副社長と知り合いなんだって?」

 ええええええっ!知り合いではあるけれども。
 しかも一夜を共にしてしまった相手だ。真宮さん、部長に私のことをなんて話したんだろう。
 
 無言でいると
「お久しぶりです」
 フッと真宮さんが微笑んでくれた。

 私はなんて答えればいいの。

「お久しぶりです」

 真宮さんの言葉をそのまま返す。

「田澤さん、真宮さんの社内案内をお願いします」

 部長からの指示に
「ええっ。あの、私なんかが……」
 どうして私が真宮さんを案内しなきゃいけないの。二人きりにさせないで。

「僕がお願いをしたいんです。こう見えて、知らないところだと緊張してしまうので。友人の田澤さんにお願いをしたいって」

 真宮さんがすみませんと付け足した。断われる雰囲気ではない。

「はい。わかりました」

 部長と課長はその後、少しだけ真宮さんと話し、行ってしまった。
 部長からは資料を渡される。社内の配置と業務内容が書かれている。

 これを伝えながら案内してってことよね。
 さっき、私がいる部署のことは課長が説明していたし、違うブースへ行けばいいのかな。

「ご案内させていただきます」

 私が真宮さんに声をかけると
「お願いします」
 彼は軽く会釈をしてくれた。

 物腰はやっぱり柔らかいな。
 まずは二人きりの空間になったら、謝罪しよう。

 一歩ブースから出て、二人で廊下に出る。
 ふぅと息を吐き、誰も見ていないことを確認すると
「すみませんでした」
 私は真宮さんに向かって深く頭を下げた。

「どうして小春さんが謝るんですか?」

 真宮さんは私の突然の謝罪に驚いているようだった。

「あの、私。真宮さんが副社長ってことは知らなくて……」

 話していると、社員が向こうから数人歩いてきた。

「小春さん。ゆっくり話したいんです。俺もきちんと説明したいことがあって。今日この後、時間ありませんか?」

 真宮さんは社員には聞こえないような声量でたずねてくれた。
 真宮さんと二人で?HOPE製薬会社の副社長と会話なんて緊張する。肩書きがついただけで真宮さんは真宮さんなのに。

 私も一方的に彼の話を聞かないであの時帰ってしまったから
「わかりました」
 返事をすると
「良かったです」
 彼はほっと息を吐く。

 副社長って立場でも、上から目線じゃないんだ。
 少しだけ肩の力が抜けた。
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