一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています
「社長である父の名前は社員も知っていると思いますが。俺の名前と立場は、俺が社内で動きやすいよう、一般社員には大きく公表していないんです。俺の名字は亡くなった母の名字を使っています。実の父ではないんです」

 そうだったんだ。実のお母さんは亡くなっているんだ。

「血は繋がっていませんが、父は俺のことを大切にしてくれて。俺も父の仕事に興味があり、働く姿を見て憧れていました。だから勉強のために、一般の新卒から入社して、今では社内調査とか、会社全体のことを把握できるよう動いています」

「社員にはできるだけストレスなく働いてほしい。なので、社員用の相談窓口を設けているんですよ。匿名で報告できるようなシステムがあって。一人の社員の退職をきっかけに、相談窓口に一定の人物によるハラスメント行為の相談が何件もあって。調べることになったんです。だけど難しかったのが、そのハラスメント行為が業務外で起こることで。頭を悩ませまして」

業務外のモラハラ、パワハラ行為って、なんだかわかる気がする。

「イレギュラーな対応でしたが、俺が異動した社員を装い、調べることになりました。詳しいことは言えませんが、それが先日小春さんにはじめて会った時のことです」

 飲み会の時にあんなことをされても怒らなかったのは、証拠を掴むためだったんだ。

「変装しているのは昔からです。大学から容姿のせいで女性に騒がれることも多くて面倒で。対象者と小春さんたちの繋がり方がわからなかったので、しばらくは小春さんにも立場と素顔を隠すしかありませんでした」

 対象者っていうのは、藤本さんとかあの場にいた人たちだよね。
 かなり真宮さんに態度が悪かったし、後輩を虐めて楽しんでいた感じもあった。

「一気に内容を吸収した感じですが、教えてくれてありがとうございます。理解できました」

「小春さんと二人きりで会う時は、素性を知られても良かったんですけど、小春さんに副社長ってことを伝えたら引かれてしまうんじゃないかと思い、勇気がなくて言えませんでした。今日は素顔の俺を見てほしくて。それに近い将来、父を継ぐことになるので、そろそろ変装は辞めようと思っています」

 私、急に真宮さんが今の容姿で現れて、副社長ですって言われたら、きっと帰っていたと思う。
 たとえご飯になったとしても、あんなに自然体で過ごすことなんてなかったんだろうな。

「正直、真宮さんの言う通りです。真宮さんに副社長だってことを伝えられたら、きっとあんなに楽しい一日にはならなかったと思います」

 真宮さんと過ごしたあの一日、最後は私が勘違いをして台無しにしてしまったけれど、心から笑えた。
 酔っちゃったあとのことは今思い出すと、とても恥ずかしい。

「だからあの夜、対等に接してほしいって小春さんに伝えました。副社長としての俺じゃなくて、普通の男としての俺を見てほしかったから」

 真宮さんもあの時は、普通のプライベートとして一緒に楽しんでくれたのかな。

「飲み会で小春さんに連れ出してもらった時、はじめて女性に対してドキドキしました。二人で食事をした時も映画館に行った時も、ゲームセンターで遊んだ時も、夢のようでした。俺、小春さんのことが好きです。付き合ってください」

 風が吹いて、髪の毛が揺れる。目の前の観覧車が止まって見えた。
 告白された瞬間、真宮さんの目がとても真っすぐで真剣で、目を逸らすことができなかった。

「俺、昔、虐められていたんです。小学生の時だったと思います。実は飲み会の時、その思い出がフラッシュバックして、一瞬、動けなくなりました。だけど小春さんが助けてくれて。連れ出してくれて、救われました。今度は俺が小春さんを守りたいんです」

 次第に言葉の重みが理解できて、顔が熱くなり鼓動も速くなる。

「私、そんな大したことはしてなくて……」

 真宮さんと付き合う?
 相手は大手企業の副社長だよ。私と住む世界が違う人。こんなに近くにいるけれど、本当はとっても遠くにいる人で、私なんかが一緒にいちゃいけない人なんだと思う。
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