一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています
「マンションの更新はしない。別れよう。お前とはやっていけそうにない」

 どうして急に?
 確かに今、言い方はちょっとキツクなっちゃったけれど。
 私、間違ったこと言ってた?

「俺、もっと可愛くて、おしとやかな子が良い。疲れて帰ってきて小言を言われるのなんて面倒だし、気分が悪い。お前も仕事しているかもしれないけど、俺だってお前よりもっと重要なポストを任されてんだよ。だからこんな良いマンションを借りられてんのに」

「はぁ!?なにそれ!」

 もっと可愛くておしとやかな子が良い!?
 疲れているのはお互いさまだし、二人で住んでいるんだから家事だって手伝ってくれたって良いじゃん。
 自分が同棲する前に提案してきたことなのに。

「更新は二カ月後だよ!それまでに新しく住むところを探せって言うの?新はどうするの?」

「俺は一人で違う物件でも探して住む。とにかく更新はしない。手数料とられるし。それまでに出て行く準備しておけよ。あと、もう俺に必要なこと以外、できるだけ話しかけないでくれ。お前と話すとイライラしてくる」

「ちょっと!!」

 新は態度を一変させ、嫌なものを見るような目で私を睨みつけると、自室へ入って行った。

 本当にもうこれで私たちの関係は終わりなの?こんなにあっけなく?

 今日はお互いに冷静に考えられないだけだ。明日になったら新も<ごめん>って言ってくれるはず。冷却期間を設けよう。
 私は新に再度話しかけることをせず、寝室のベッドで横になった。

 次の日――。

 朝起きるといつも通りの風景に戻ると思っていたのに、新は私の呼びかけに応じず、無言を貫いた。
 しばらくすれば元通りに戻るだろうと思っていた関係は、修復することなく三週間を過ぎ、私も覚悟を決めて次の転居先を探すことにした。

「家賃、今こんなに高いんだ。それにこんなに物件って少なかったっけ?」

 毎日スマホを見ながら賃貸物件を検索するも、ここが良いと思えるところがない。
 だけどここから出て行かなきゃいけない。
 
 私名義で変更申請をしても、私一人ではこのマンションの家賃は払えない。更新手数料もかかる。妥協して休日は不動産を巡り、積極的に内見に行くしかなかった。

 新と最後に会ったのはいつだろう。
 きちんとした挨拶も会話もなく、私たちの二年間ちょっとは終わりを迎えた。

 私の新居は、駅から徒歩十五分程の築年数の経っている二階建てのアパート。
 二階を借りることができたが、壁が薄く、住民のモラルもないためかなり煩い。
 となりはカップルで、毎日といってもいいほど夜の営みの声が聞こえてくるし、もう一方のとなりは学生のようで、友達が集まり飲み会みたいなノリの会話がいつも聞こえてくる。

 仕事は変わらずのクレーム対応も多く、夜も騒音で寝不足が続いていた。

 心身共にコンディションが最低だった時
「小春ちゃん、お願いがあるの!」
 同じ部署の斎藤先輩が手を合わせて私に話しかけてきた。
< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop