一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています
 慌ててかけ直すと
<もしもし?小春さん、今どこですか?>
 いつもより声音の低い詩音さんがすぐに出てくれた。

「会社から帰ろうとしているところです」

 新と会っていたことは言えない。詩音さんのことだ、心配してくれるに違いない。

<俺も今小春さんの会社にいるんです。今日もまた一緒に帰りませんか?>

 詩音さん、会社の中にいるの?すぐ戻らないと。

「はい!今から戻ります」

 早歩きで会社に戻ろうとすると
<戻るって。小春さん、今帰るところじゃないんですか?>
 痛いところをつかれた。さっきの私の発言がウソになっちゃう。

「すみません。実は会社から少し離れたところまで来ているので、駐車場まで戻りますね」

<誰かと会っていたんですか?>

 詩音さんの言葉に、足が止まる。
 詩音さんの勘?鋭くない?

「えっと……」

 どうしよう。きちんと説明した方がいいかな。悪いことはしていないんだから。きちんと話したら、詩音さんならわかってくれるよね。

「ごめんなさい。元彼から呼び出されて。だけど何もしていません。詩音さんに会ったら、ちゃんと説明します」

 目の前に詩音さんがいるわけではないのに、電話をしながら頭を下げていた。

<わかりました。では、駐車場で>


「詩音さん!お疲れ様です」

 駐車場に行くと、詩音さんは自分の車の前で待っていてくれた。

「小春さん。後部座席に座ってください」

 挨拶の返しもなく指示を受ける。

「はい」

 なんだろうと思いつつも、後部座席へ座ると詩音さんが隣に座り
「っ……」
 声をあげる間もなく、肩を掴まれ強引に引き寄せられキスされた。

「はぁっ……」

 吐息が漏れる。詩音さんの舌が口腔内に入ってきて、何かを求めるように動いている。

「んっ……」

 グイっと頭を抑えられ、離れられない。

「はぁ……、苦しっ……」

 私の声に詩音さんが反応をして唇が離れた。

「どう……したんですか?」

 詩音さんらしくない強引なキスに戸惑う。

「……。元彼と会っていたと聞いて、不安になって」

 ギュッと抱きしめられた。
 詩音さんでも不安になるの?

「ごめんなさい。本当に何もないんです。別れた時に、向こうの荷物に私の荷物が紛れ込んでいたみたいで。大切なものだったので返してもらっただけです」

 私も詩音さんを抱きしめ返す。

「葉山さんに気持ちはないんですか?」

「ないに決まっているじゃないですか!私は詩音さんと付き合ってるんです」

 恋愛感情なんてあるわけない、私には詩音さんがいるんだから。

「じゃあ、証明してください」

「えっ?」

 どうやって証明すればいいの?

「小春さんからキスしてください」

「ええっ」

 こんなところで?
 後部座席は一応スモークみたいになっているし、正面から見ないとわからないようになっているんだ。

「できないんですか?」

 首を傾げながら目を細め、詩音さんは怪訝そうにしている。
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