一夜限りの関係のはずが、隠れ御曹司から執愛されています
「いえ。お姉さんと一緒にいる詩音さんは、私の前では見せてくれない顔をしていて。そんな顔を見ることができて嬉しいなって思いました」

「姉が余計なことを言わないか心配で」

 詩音さんはチラッと奈々子さんの方を見る。

「小春ちゃんと仲良さそうでいいなー」

「仲良しですから。姉さんも新しい相手を見つけたらどうですか?」

「私はもういいの!恋愛なんか」

 奈々子さんは、ドンッと勢いよくビールジョッキを机の上に置く。
 離婚しているって詩音さんが教えてくれたから、事情を知っていて良かった。

 詩音さんはポケットからスマホを取り出し
「すみません。仕事の電話で少しだけ席を外します。姉さん、小春さんを虐めないように」
 彼は席を立ち、外へ出て行ってしまった。

 副社長だもん。今日は奈々子さんのために午後から休みをとったと言ってた。休みなのに電話がかかってくるって、やっぱり大変だ。
 
 奈々子さんは詩音さんが店から出るのを確認すると
「さて。小春ちゃん。聞きたいことがあるんだけど?」
 私と距離を詰めながら、目線を鋭くした。

「はい。なんですか?」

 詩音さんの好きなところとかかな。
 勝手に平和な質問を想像していたけれど
「詩音と付き合っている理由、お金目当てとか、うちの財産目当てだったら、今すぐ別れてくれないかな。不愉快なの」
 えっ。私、そんなつもりじゃないのに。

「そういう子、多いの。詩音がひっかかることは《《あれから》》なかったけど、今回は年齢も年齢だから。小春ちゃんみたいな純粋そうで何も考えてなさそうな子だったから、簡単に信じちゃったみたいだね」

 奈々子さん、さっきまでは冗談も言ってくれたし笑ってくれていたのに。
 今は真剣な顔をしている。酔っているように見えたのも、フリだったの?

「私が詩音さんと付き合っている理由は、お金のためなんかじゃありません。詩音さんのことが好きで……」

 奈々子さんは、はいはいと私の話なんてまともに聞いてもくれず
「実はさ、小春ちゃんのこと、詩音の婚約者ってことにして内偵したんだよね。小春ちゃんさ、実家がそんなに裕福じゃないでしょ。今だってかなり仕送りしているみたいだし。あと婚約者にフラれたばかりだよね。だから家族のためにとか、詩音みたいなハイスペックな男を彼氏にして、元彼を見返したいって気持ちはわかるけどさ」

 なにそれ。酷い言い方。

 奈々子さんはビールを飲み
「身分違いってわからないのかな。いくら渡したら別れてくれる?詩音には秘密にしてあげるから。困っているなら相談して?詩音の相手は私が決めたいの」
 悪びれることもなくそう言い放った。

 どうしよう。
 いくら詩音さんのお姉さんでも酷すぎる。詩音さんの彼女は、詩音さん自身が決めることなのに。でもここで言い返したら、奈々子さんに今後もう二度と認めてもらえないかもしれない。

「私がただの一般人ってことはわかっています。お金には困っていません。なので貸していただかなくても大丈夫です。こんな私でも、詩音さんは選んでくれました。だからお姉さんからも認めてもらえるまで、頑張ります」

 私が努力すればいい。
 詩音さんの彼女でも胸を張っていられるように。
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