夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 軋むほどに握りしめられた手首が、男とバーで遭遇した日を思い起こさせる。

 あの日、黙って見過ごしてれば、こんなことにならなかったのだろうか。だけど、あの時勇気を出したから、渉さんと再会できた。渉さんが、私に気付いてくれた。

 もう一度、やり直すんだ。
 弁護士を支えるパラリーガルとして、渉さんの妻として。

 鞄に下がるクマのマスコットを、男に気付かれないように探り寄せ、その小さな右手を掴んだ。
 深く息を吸い、唇を噛み締める。

「……ずっと、私を見ていたの? お店にかけた無言電話も、私がいるのを確かめるため?」
「あー、やっぱり気付いてたのか。変だと思ったんだよね。急にキッチンカーでの販売辞めちゃうしさ。もしかして、店頭に出てくるのも減らした?」
「あなたのやってることは犯罪よ! お店の皆も迷惑してたんだから!」
「店に電話しただけじゃん。まあ、毎日店にいるとわかったら、かける必要はなくなったけどね」

 やっぱり、私の行動パターンを探ってのことだったのか。
 思い返すだけで、恐怖で指が震えそうになる。だけど、ここで心折れるわけにはいかない。
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