夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 怒っていたんじゃない。あの顔は、苦しんで堪えていた顔だったんだ。
 そんなことにも気付けなかったなんてと思うと同時に、渉さんの優しさや弱さ、心の柔らかい部分を見たような気がして、胸の苦しみが柔らかくなった。

「謝らないでください。私を助けてくれたのは、神様じゃない……渉さんだから……」

 濡れている渉さんの頬に手を寄せる。

「私、ずっと待ってたんです。神様じゃなくて、渉さんが助けてくれるのを」

 必死に渉さんを呼んでいたことを思い出し、低い声で「百香を放せ!」って叫んで現れた姿を脳裏に蘇らせる。
 今目の前にある優しい泣き顔とは全然違う怖い顔だった。だけど、それを見て心底ほっとした。

「……私のこと、百香っていってましたよね」
「あー、いや、それは……あの時は頭に血がのぼってたというか」

 バツの悪い顔をして、渉さんは少し視線を逸らした。別に責めてるわけじゃないのに。
 なんだかおかしくなって、小さく笑うと、泳いでいた視線が戻ってきた。

「もう、百香って呼んでくれないんですか?」
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