夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 とっさに顔を背けて窓の外を見た。その先には、事故現場を迂回する車が押し寄せているのか、夜だというのに短い渋滞ができていた。

「……大学は無事に卒業しました。今は、大学時代にバイトをしていた店で、経理兼販売員として働いています」
「そうか。……仕事は楽しい?」

 楽しいかと訊かれて思い浮かべたのは、気の優しい店長夫婦だった。

 通っていた大学の側にある小さなカフェを併設しているパン屋。地元の人や学生にも愛されたその店で、縁があってバイトをするようになった。大学4年に上がった頃、就職に悩んでいた私に店長が「経理として働く気はないか」と声をかけてくれた。
 特に目的もなかった私を救ってくれた。毎日が忙しいけど、私に笑うことを思い出させてくれた恩人夫婦でもある。

「楽しいです。私……大学で目的を失ってたから、その時、手を差し伸べてくれたのが、店長と奥さんなんです」
「……そっか。それで実家に帰らないのか」
「そんなところ、かな。それに……」

 それにといいながら、次の言葉が出てこなかった。
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