夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 パン屋で働いているなんて、地元の同級生に知られたら、どんな憐みの眼差しを向けられるか。考えただけで惨めだ。

 店長夫婦の笑顔を思い浮かべながら、胸の暗い部分が膨れあがる。
 窓の向こうで動き出す車のヘッドライトを眺めると、渉さんが「残念だな」と呟いた。

 渉さんの言葉が、私の暗い部分に突き刺さった。

 そう、私は凄く残念な人生を歩んでいる。
 小学生の時、渉さんに「私も弁護士になりたい!」ていって、それから家庭教師までしてもらったのに。結局、今はパン屋の販売員なんだもん。

 私たちの住む世界は、途方もなく距離があるような気がした。

「……ほんと、残念な人生ですよね」

 泣きたくなって声が震えた。でも必死に笑顔を作って、爪が掌に食い込むほど拳を握った。

「そうじゃなくて、百香ちゃんが辛い時に、俺は自分のことで精一杯だったんだなと思って……頼りなくてごめんな」

 握りしめていた拳の上に、渉さんの大きな手が重なる。
 温かい手に包まれて、堪えていた涙が零れ落ちた。

 どうして、そんなに優しくしてくれるの。
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