夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 勇気を出して尋ねれば、よかったのかもしれない。だけど、零れ落ちた涙と一緒に言葉も流れていった。
 止まらない涙が頬を濡らす。
 どうすることもできずに嗚咽を噛むと、優しいムスクの香りがするハンカチが頬を拭った。

 顔を上げれば、少し遠慮がちに微笑む顔がある。
 小学生の頃、公園で泣いていた私にハンカチを差し出してくれた渉さんの顔が重なった。

 渉さんはなにも変わっていない。昔と変わらず優しいお兄ちゃんなんだ。変わってしまったのは、私……

 ハンカチを受け取ると、渉さんはしばらく黙って私の背中をさすってくれていた。そうしているうちに、混雑していた胸の奥が落ち着きを取り戻していった。

「……ハンカチ、洗って返しますね」
「気にしなくていいよ。でも、それって……また会ってくれるってことかな?」
「──え?」

 驚いて渉さんを見ると、通り過ぎたヘッドライトに一瞬、私を真っすぐ見つめる顔が照らされた。
 見つめる瞳は優しく、少しも私を離してくれない。

「今度はランチでも行こう」

 静かな声が胸の奥に染みるよう、じわりと響く。
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