夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 熱をもった手が頬に触れる。

「百香ちゃんは今、恋人いるの?」

 その問いに困惑しながら、小さく「いません」と応えると、渉さんは今日一番の笑顔を見せて「よかった」と囁いた。

 タクシーが静かに停まった。
 窓の外を見れば、私のマンションの前だった。

 連絡してと渡された名刺を握りしめ、タクシーを降りた。
 私がオートロックのエントランスの向こうへ入り、エレベーターに乗るまで、渉さんを乗せたタクシーは止まっていた。

 エレベーターを降りて部屋に走り込む。玄関の鍵をかけ、部屋の電気をつけると急いでベランダの窓に駆け寄った。
 外を覗いたけど、もうそこにタクシーは止まっていなかった。

 へなへなとその場に座り込み、カーテンを握りしめた。

 タクシーの中で「よかった」と囁いた声がまだ耳の奥に残っている。
 今夜に起きたことと一緒に、初恋のお兄ちゃんが脳裏をよぎった。

「……渉お兄ちゃんが、私を口説くって」

 そんなの、冗談だよね。
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