夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
「仕事中だったね。また後で連絡するよ」
「──はい。お買い上げありがとうございました」

 にこっと笑った百香ちゃんは、俺が手を上げると、待っている客を振り返った。

 キッチンカーを離れると、ひやりとしたビル風に背を叩かれた。
 ふと腕時計を見ると、昼の休憩時間をずいぶん削ってしまったことに気づいた。

 百香ちゃんの小さな変化は気になるところだが、午後の業務は待ってくれない。
 足早に事務所へ戻ると、午前中に届いていたメールを確認しながらクロックムッシュを齧った。

 午後はクライアントとの打ち合わせが続き、事務処理を片付けた後には通知書の確認や契約書、示談書の作成に追われた。それから、マンションに戻って部屋の明かりをつけたのは22時を回っていた。

 MOMOTAの紙袋をテーブルに下ろし、ネクタイを解きながらソファーに腰を下ろして息をついた。

 脳裏をよぎったのは、一瞬曇ったように見えた百香ちゃんの笑顔だった。
 仕事が楽しいと、前にいっていた。客に向ける笑顔を見かけた時、その笑顔は花が咲いたようだった。充実しているんだと、その時は思った。

「……違うのか?」
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