夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 ここにはいない百香ちゃんに問うように、言葉が零れた。

 今が楽しいならそれでいい。だけど、もしもそうじゃないなら、どこかで夢を諦めきれない思いがあるなら、その手を掴んで引き寄せたい。俺の横で、一緒に……

「弁護士になりたいの」といっていた高校生の百香ちゃんを思い出しながら、スマホを手に取った。

 コール音を聞きながら、俺の勘が当たっていることを心の片隅で祈っていた。
 通話が繋がり、遠慮がちな声が「渉さん、こんばんは」と耳に触れた瞬間、愛おしさが込み上げた。

「百香ちゃん、起きてた?」
「はい。もしかして、渉さんは今帰ってきたんですか?」
「ああ……百香ちゃんの声が聞きたくなって」

 他愛もない会話に、百香ちゃんは照れたような声で「また上手なんだから」なんて笑う。昼間に見た曇った表情は気のせいだったのか。

「パン、美味しかったよ。おかげでやる気が出て、午後も乗り切れたよ」
「本当ですか?」

 嬉しそうに華やぐ声が耳に触れた。
 俺の勘違いだったのか。それならそれで構わないがと思った瞬間だった。小さく届いた「よかった」という呟きが、憂いを含んでいるように聞こえた。
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