夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 俺が、百香ちゃんとの仕事を諦めきれず、そう感じてしまっているだけなのかもしれない。
 だとしても、憂いを感じた今、黙っていることはできなかった。

「……百香ちゃん、大丈夫?」
「え?」
「声に元気がないような気がしたんだけど、なにかあった?」

 どう切り出したらいいか。
 まだ弁護士の夢を諦めきれないのかと訊くのは、さすがにデリカシーがなさすぎか。どうすれば、百香ちゃんから頼ってもらえるのか。

 黙ってしまったスマホの向こうに意識を向ける。

 百香ちゃんがどんな顔をしているのか考えたら、言葉がつまった。そっとしておいた方がよかったのか。だけど、確かめずにはいられない。

「仕事、楽しいんだよね?」

 努めて穏やかに訊ねてみたが、これもすぐに返事はなかった。
 だが、しばらくして小さく鼻を啜る音が聞こえた。それから「楽しいですよ」と。

 きっと嘘はついていないのだろう。だけど、その答えに納得はできない。

「じゃあ、どうして今、泣いているんだ?」

 問い詰めるつもりはなかった。なのに気持ちが焦り、少し言葉が冷たく響いた。

 再びの沈黙に、もどかしさと焦りに苛立ちが募る。
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