夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
「すれ違いでもしたら大変でしょ」
「そうだけど……」

 恐る恐る男の方へ視線を向けようとしたが、真奈さんの手が空のグラスに伸びてそれを思いとどまらせた。

「帰る前に、新しい飲み物はどうかしら。モクテルにでもはさましょうか?」
「それじゃあ……エルダーフラワーで」

 真奈さんに答えると、カウンターの上でスマホが震えた。弾かれるようにしてディスプレイを見ると、渉さんからの着信が表示されている。

「もしもし、渉さん」
「百香ちゃん、待たせてごめん。店にいるよね?」

 耳に触れる優しい低音ボイスに、ほっと肩の力が抜けた。

「うん……真奈さんと話してました」
「そう。今、オフィスを出たから十分もしないで着くと思う。このまま、通話は繋げたままで待っていて」
「私がそっちに行くのは──」
「ダメだ。店を出た後、つけられたらどうする」

 少し叱るような声にうんと頷くと、少し間をあけて「なにか話しかけられた?」と心配そうに尋ねられた。

「なにも。怖いくらい、なにもないの」

 声をひそめて答えると、耳に少し荒い息遣いが触れた。もしかして渉さん、走っているのかな。
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