夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
「……ごめんなさい。やっぱり迷惑ですよね」
「違う。百香ちゃんに、もしものことがあったらって考えたら、気が狂いそうになったんだ」

 暗い窓の外をすぎるヘッドライトに照らされた渉さんは、鋭い刃物のように瞳を輝かせた。
 ここにはいない、だけど私の背後からついてこようとする男の影に、その眼差しが向けられているのだろう。
 大きな手が私の頬を撫でた。

「一刻も早くあの男から引き離したかった。走りながら、あの場所に留まらせるしかない自分の無力さが恨めしかった」
「そんな……渉さんは来てくれたし、何もなかったじゃないですか」
「けど、怖かっただろう?」

 気遣う声に戸惑いながらも頷いた。

「俺の部屋に泊まるのも不安に思うだろうけど、なにもしないから。ただ、百香ちゃんを守りたいだけだから」

 目を細めて笑みを浮かべた渉さんは、頬に添えていた手を離そうとした。それが寂しくて、つい手を重ねて頬に留めた。
 見開かれた渉さんの瞳を、薄暗いタクシーの車内に差し込むヘッドライトの光が輝かせる。

「そういうことをすると、勘違いしちゃうよ?」
「渉さんのこと、信じてますから」
「嬉しいな。だけど……」

 ふっと笑った渉さんは、 重ねられた私の手を握りしめると、自身の口元へと引き寄せた。

「俺も一人の男だっていうのは、忘れないでくれよ」
「えっ……?」

 ちゅっと小さなリップ音を立てて、指先に口づけられる。熱い吐息が冷え切っていた指に触れ、鼓動が跳ね上がった。
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