夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 湯気をくゆらせるカップに手を伸ばし、それを一口飲み込む。ほのかな甘い香りが喉を落ちていき、自然と吐息が零れた。
 どうにか紳士の振る舞いを保てていただろうか。

 背後にあるソファーに体を預け、暖かい光に照らされる天上を見つめた。

 明日午後の打ち合わせに必要な書類はもうできあがっている。ディスプレイに映し出している起案は担当している新人のもので、条項に見落としがないかを確認しているが、そう難しいものではない。
 つまるところ、仕事をせずに今から寝ても問題はない。

 だが、こうして仕事にでも向かっていないと、百香ちゃんを抱きしめたい衝動に駆られてしまいそうだった。

「冷静になれ。状況が状況だ」

 己に言い聞かせるように低く呟く。
 そうだ。怯える百香ちゃんを抱くわけにはいかない。

 ストーカーの事案ではクライアントが人間不信になったり、男性不審に陥るケースもあるんだ。
 百香ちゃんに、いらない不安を抱かせることはない。必要なのは安心感だ。

 それを与えるために、守るためにここに連れてきたんだろう。考えなしに手を出して、無駄なトラウマを植えることになったら本末転倒だ。
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