夢から逃げた私ですが、過保護なエリート弁護士に溺愛されてます
 百香ちゃんの声が震えていた。
 その顔を見るのが怖く、目の前に迫った信号が青のままでよかったと心底思った。

 ゆっくり息を吸いながら深夜に書き認めた『特約事項』を思い浮かべる。そうして、一言一句(たが)うことなく告げた。

「本件の解決における着手金および成功報酬は、甲(百香)と乙(渉)の結婚に向けた準備資金および生涯にわたる乙の独占権とする」

 言い終えると、百香ちゃんは「プロポーズと思っていいんですか?」と消えそうな声で尋ねた。

「ああ。夫として、君を守らせてくれ」

 静かな車内に、俺の決意が響く。
 するとわずかに間を置いた後、小さく「はい」と返事が聞こえた。

 とっさにブレーキを踏みそうになりなったが、思いとどまって冷静を装った自分を褒めたい。

 胸の内では今すぐ百香ちゃんを抱きしめたい気持ちが渦巻き、込み上げる嬉しさと安堵感で口元がゆるんでいく。
 その時だった。百香ちゃんが「私も渉さんを支えたい」とはっきりいった。

「渉さんが自慢できるパラリーガルになります! 生涯かけて、恩返しさせてください」
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