和霊




それとは別に、本当に不機嫌になった時もある。僕がいらないこと、言わなくてもいいことをうっかり言ってしまい、彼女は本気で拗ねた。僕が話すことは無視をして、普段なら、お風呂に入る前に「お風呂に行ってくる」、ドライヤーをかける前に、「ドライヤーをかける」とマニュアルのように報告してくるのに、その日は何もなかった。ベッドに入ってからも、僕を徹底的に無視する。最初に「ごめん、ごめん」と軽い感じで謝ってしまったことが良くなかったのかもしれない。だけど、素直に謝ることができないのは、年齢のせいだろうか、それとも僕という人間の醜さなのだろうか。


大人の拗ねは、夜を超える。そういう風なことを書いている漫画がある。


例にもれず、彼女の拗ねは、夜を超えた。僕は毎日「今日も愛しているよ」と言うようにしていて、また例にもれずその日も「今日も愛しているよ」と言った。すると彼女は、「私も愛してる」と一応返してくれたが、それまでで、何か聞いても「うん」だけしか返してくれない。


ならいっそ、もう、放っておこう。彼女が何か言ってくるまで、機嫌が直るまで放置しておこう。


そう思って、僕は放置を決め込んだ。勝手に朝食を済ませ、勝手に本屋に出かけ、文庫本を2冊買い、勝手にカフェでそれを読みふけり、「ふるさと」を聴きながら無言で帰宅して、勝手にお風呂と夕食を済ませた。


彼女はそれに対して、何も言わなかった。だったら、このままでいようと僕も徹底的になった。でも、結局ベッドに入り、日付が変わると、僕はまた「今日も愛しているよ」と伝えた。彼女も「私も愛しているよ」と返してくれた。


だから、どうしたって、嫌いになれない。僕は愛することにも頑固なのだと思う。



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