和霊
彼女の機嫌をとるのは、楽ではない。精神的にも、肉体的にも。しかし、愛とはそういうもので、多少の自己犠牲なしには、成り立たないものなんじゃないだろうか。僕は考えた。過去の恋愛は、一緒にいて楽であることを第一に考えていた。そんな調子で、無難に愛が進んでいくものだから、ちょっとしたエラーが、バタフライエフェクトのように、反響して、壊滅的被害をもたらす。こんなことになるなんて思わないから、備えなんてないから、修復もできない。目も当てられない。犬も食わない。
彼女も同じように思っているのかもしれない。僕の機嫌をとるのは、楽ではないと。僕だってよく不機嫌になった。彼女に気を使わせるような態度をいくつもとった。そんな時、彼女がどういう気持ちでいたのか、察する。
とどのつまり、一番重要なこと。それは、愛し方じゃないかと思う。愛するために、どれだけのことをできるか。相手のために、死ねるくらいの覚悟がないなら、いっそ愛さない方がいい。彼女は煙草を吸う。僕より早く死ぬんじゃないかと常々考える。僕は彼女に煙草をやめるよう伝えた。彼女は頑としてやめない。「キミが死んだら、僕も次の日後を追うよ」と言ってみたりもした。でも、彼女は「キミが死ねないように、私が死ぬ前の日に、縛り付けておく」と言った。それで僕は彼女を抱きしめた。伝わる温もりは、本物の愛だと感じた。