夜明けが世界を染めるころ
お嬢様は、また厄介ごとに巻き込まれたようだ。
――いや、正確には自ら突っ込んでいっている。

孤児院でのボランティアの話を聞き、私は自分がすべき役割を把握した。
お嬢様は他にも抱えている案件が多い。
それらをすべて完璧にこなしてしまうのが、彼女の凄いところなのだが――だからこそ、支える側の私が抜け落ちるわけにはいかない。

そして孤児院のボランティアで問題は起こった。
だがお嬢様が使った力については、すでにセナが殿下と共に処理を終えている。
次に動くべきは、別件。

最近、巷を騒がせている宝石事件だ。

ブティック・グロウのルイ。その妹であるエマの変貌ぶりを、私は間近で見ている。
あれが“単なる宝石”であるはずがない。

宝石を身につけると気分がよくなる――
あまりにも曖昧で、胡散臭い話だ。

しかも、競売の存在を仄めかした客は、酒に酔っていたという。
信憑性は低い。

だが、だからこそ無視はできなかった。

私は心の中で、静かに糸を手繰り寄せる。

宝石。
気分の高揚。
裏の競売。
そして曖昧な口伝え。

これまで集めた断片を照らし合わせると、不思議なほど違和感なく繋がっていく。

――蝶の会。

表向きは、上流階級の社交を目的とした非公式な集まり。
だが、その実態はほとんど知られていない。

名簿は存在せず、開催場所も一定ではない。
参加者は紹介制。
そして一度足を踏み入れた者は、決して内情を語ろうとしない。

私は、かつて給仕に扮して潜り込んだ夜の記憶を辿る。

貴族たちの何気ない会話。
視線の動き。
言葉を濁す癖。

「あの会」
「例の集まり」

名を出さず、それでいて確実に共有されている合図。

どれも決定打には欠ける。
だが、そこには間違いなく“何か”があった。

宝石が媒介なのか。
それとも、宝石はただの象徴にすぎないのか。

無意識のうちに、手袋の内側で指を握りしめる。

危険な匂いがする。
だが同時に、この先に真実があるという確信もあった。

――お嬢様が、これから踏み込もうとしている場所だ。

だからこそ、慎重に。
そして誰よりも先に知る必要がある。

たとえそれが、闇の深い社交界の裏側であったとしても。

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