夜明けが世界を染めるころ
「それはもちろん、暴れ羊のショーンのカットだってやったことあるんだから」

お嬢様は自信満々に言う。
……羊のカットって、丸刈りのことじゃないのか?

(ちょ、ちょっとそれは……いやだ……)

不安がよぎるけど、言う間もなく手鏡を渡される。

「はい、できた!」

鏡を見ると、短くきれいに整えられている。
前髪は少し長めに残してくれたようで、ほっと胸をなでおろす。

「ありがとう」

笑顔で礼を言うと、お嬢様はにこにこと頷いた。
その笑顔だけで、少し勇気が湧いてくる。

そして次の日。
王国騎士団の試験のため、身なりも整えてもらった。
ある程度の礼儀作法や教養は必要だけど、あとは実力勝負だ。

――俺みたいな平民でも、ラピスラズリ伯爵家の後ろ盾があるおかげで、試験を受けられる。

「正直、14歳で騎士団を受けるなんて聞いたことないけど……
テオなら大丈夫だろう」

セナの言葉は、少し憎たらしいけど、心強い。
お嬢様と仲が良くて、ちょっと意地悪なところもあるけど……
ほんの少しだけ、感謝している自分がいた。

(よし、やるしかないな……)

心臓が少し高鳴る。
1年間、学んできたすべてを試す日が、今ここにある。


「テオなら、大丈夫だよ」

ニコッと微笑むお嬢様。

その笑顔を見た瞬間、
胸の奥で、静かに決意が固まった。

(この人のそばにいたい)

だから、絶対に結果を出す。
ここに、居続けるために。



王国騎士団の試験は、
正直に言えば――思っていたよりもずっと簡単だった。

剣も、体力も、判断力も。
この一年で積み上げてきたものが、
そのまま形になっただけだ。

そして、最後の魔宝石適性判定。

透明だった石は、ゆっくりと赤く染まっていく。

スピネル。

それは
信念、再生、そして揺るがぬ意志を象徴する魔宝石。

どんな絶望の中でも折れず、
何度打ち砕かれても立ち上がる者に応える石だと聞く。

――まるで、俺自身を映すかのように。

こうして俺は、
14歳 最年少にして王国騎士団試験を
トップの成績で合格し、
ラピスラズリ伯爵家の騎士団員になることが決まった。

胸がいっぱいで、
すぐにお嬢様に報告に行った。

……のだが。

庭園のそばで、足が止まる。

声が聞こえた。

「テオが、合格したそうですね」

ユウリの声。

「うん! よかった」

お嬢様の、弾んだ声。

……もう、知っていたのか。

それもそうだ。
伯爵家に正式に籍を置く話だ。
主人が知らないわけがない。

そう思いながらも、
なぜか目の前にいけずにいると――
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