夜明けが世界を染めるころ
「これなあに?」

「なに入ってるのー?」

子どもたちが、私が持っていたドーナツの袋を指さす。

「おい、こら」

セナが珍しく声を荒げ、慌てた様子で子ども達を制止しようとする。

「どうぞ。みんなで食べてね」

私がそう言うと、子どもたちは一瞬きょとんとしてから、ぱっと顔を輝かせた。

「ありがとうー! お姉ちゃん!」

「……お姉ちゃんじゃない。お嬢様だ」

そう訂正しながらも、逃げ出した子どもたちをセナが追いかけ回す。
いつもの堅物な騎士の姿はそこにはなく、完全に“兄”の顔だった。

その様子を横目に見ながら、私はセナの母親に向き直る。

「あまり時間はないのですが、近くに来たので立ち寄らせてもらいました。突然で、すみません」

「いいんですよ」

柔らかく微笑み、私を見上げる。

「お嬢様も、ずいぶん立派になられて……お綺麗になりましたね。セナは、よくやっていますか?」

仕送りと簡単な手紙は届いているらしいが、詳しい近況までは分からないのだろう。その声音には、母親らしい不安がにじんでいた。

「セナは、とてもよくやってくれています。
彼がいるから、私は安心して背中を任せられます。ラピスラズリの専属騎士という立場上、長期の休暇を与えられず申し訳ありません。ですが……たまには帰るよう、本人には言っておきます」

そう言うと、母親は少し驚いたように目を見開き、深く頭を下げた。

「ありがとうございます……」

その視線の先では、弟や妹たちに囲まれながら、セナが逃げたり捕まえたりと、相変わらず追いかけっこをしている。

剣を握る手とは思えないほど、優しい仕草だった。

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