夜明けが世界を染めるころ
「できました」

セナが私から一歩離れる。
その距離が、少しだけ名残惜しいと感じてしまった。

「どう? 似合ってる?」

明るい声を意識して尋ねる。

「とても、お綺麗です」

その言葉に満足し、思わず微笑む。
少し照れたように視線を逸らすセナの表情が、どこか懐かしい。

「普段お召しになっているものに比べれば、見劣りするかもしれませんが……」

「そんなことないよ。
どんな豪華な宝石より、ずっと嬉しい」

そう告げると、セナは小さく目を瞬かせた。

「実は……ラルクル商会に頼んで作ってもらったんです」

――ラルクル商会。

以前、仕事で一緒に訪れた場所。
職人の説明を真剣に聞いていた、横顔が脳裏に浮かぶ。

「……ありがとう」

自然と、頬が緩んだ。

「すごく、嬉しい」

「昔のお礼も兼ねて、ですから」

「昔?」

首を傾げると、セナは少し困ったように笑う。

「ずいぶん前に、お嬢様からいただいたブレスレットです。
さすがにチェーンが傷んでしまって……最近、ピアスに直してもらいました」

そう言って、セナは髪をかき上げた。

耳元で、淡く光を反射する水色の宝石。
アクアマリン。

一瞬で、記憶が蘇る。

「……懐かしい」

声が、自然と柔らぐ。

「まだ、持っててくれてたんだ」

あれは出会って間もない頃。
幼くて無鉄砲で、それでも真っ直ぐに「騎士になりたい」と言った少年に渡したものだった。

「はい」

セナは、迷いなく頷く。

「俺にとっては――剣より大事な宝物です」

「それ、騎士として言っちゃだめじゃない?」

「……そうですね」

ふふ、と小さく笑い合う。
何気ないその時間が、ひどく愛おしかった。

「ティアナ」

久しぶりに名前を呼ばれ、思わず瞬きをする。

顔を上げると、セナは真っ直ぐにこちらを見つめていた。

「もう、昔の弱い俺ではありません」

静かで、揺るぎない声。

「俺は騎士です。
必ず、貴女の未来が明るいものであるよう――守り抜きます」

――本当に、ずるい。

やっと想いを断ち切ったはずなのに、
こんなふうに簡単に心を揺らがせる。

やんちゃで無鉄砲だった少年は、今や立派な騎士になっていた。
優しさも、誠実さも、何一つ変わらないまま。

だからこそ――
この気持ちは、悟られないようにすると決めた。
そして、きちんと胸の奥へ仕舞う。

「昔からセナはかっこいいよ。
でもね、守るんじゃなくて――一緒に立ち向かうの」

「……そうでしたね」

セナは柔らかく笑う。
私も、できるだけ自然に微笑み返した。

「でも、頼りにしてるよ。
私のナイト」

その言葉に、セナは一瞬だけ目を見開き――
やがて、穏やかな微笑みを浮かべた。

この先に待つのは、きっと過酷な運命。
それでも今だけは…

淡い青から、角度によって紫へと変わる――
夜と朝の境目を閉じ込めたような宝石、
優しい風が、2人の間を通り抜ける。

タンザナイトが、静かに揺れていた。
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