夜明けが世界を染めるころ
テオと別れてから、ベンチに腰を下ろす。
胸の奥がまだ熱くて、冷まそうとしても追いつかない。
覚悟と不安と、ほんの少しの安堵。
いろいろな想いが、静かに交差していた。

「あれー? お嬢さーん?
どうしたの?」

その声は、迷いを吹き飛ばすみたいに明るい。
顔を上げると、太陽みたいな笑顔と、コーラルオレンジの髪がきらきら光っていた。

「……レオ」

「よいしょ。隣、座っていい?」

「うん」

当たり前みたいに隣に腰を下ろすと、レオはにっと笑って、何かを差し出す。

「俺、いいもん持ってるよ。
はい! 半分」

サンドイッチ。
朝ごはんだろうか。
そういえば、まだ何も食べていなかった。

「ありがとう」

半分受け取って、口に運ぶ。

「……美味しい」

「でしょ!」

胸を張るレオ。
その底抜けの明るさと、気取らない優しさに、自然と肩の力が抜ける。

「ごちそうさま」

「お粗末さま!」

「あ、お茶もどうぞ」

「準備いいのね」

「まあね!」

何でもないやりとりなのに、心が少しずつ落ち着いていく。

少しの沈黙のあと、レオが珍しく真剣な声で言った。

「ねぇ、お嬢さん。
俺さ、考えるの苦手で、頭より体が先に動いちゃうんだよね」

こちらを見る目は、まっすぐだ。

「だから、はっきり言うよ」

「……うん?」

「お嬢さん、俺ができること、ある?」

一瞬、言葉に詰まる。

「俺、難しいことは分かんないけどさ。
料理は得意だよ。
それに、腕力には自信ある」

そう言って、ぐっと腕を曲げてみせる。
引き締まった筋肉。
さすが元騎士団員だ。

「だからさ」

少し照れたように、でも笑顔は変わらない。

「俺のことも、頼りにしてよ。
お嬢さんが困ってるなら、
俺、絶対力になるから」

その言葉は、重くない。
でも、確かに支えになる重さがあった。

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

「……ねえ、レオ」

「ん?」

「これから、きっと大変なことが起きると思うの。
私ひとりじゃ、抱えきれないこともある」

少しだけ、息を整えてから続ける。

「だから……力を貸してほしい」

一瞬きょとんとしたあと、
レオは目を丸くして――すぐに笑った。

「なにそれ!」

軽く膝を叩いて、いつもの調子で言う。

「最初から、そのつもりでしたよ」

「え……?」

「だって俺、
お嬢さんが困ってる顔してるの、放っておけないんで」

迷いのない声。

「命かけろって言われても、たぶん『はい!』って言いますし」

「それは言わなくていいから……!」

思わずそう返すと、レオは声を上げて笑った。

「ははっ! 冗談っす!」

そして、少しだけ真面目な顔になる。

「でも本気です。
お嬢さんが前に進むなら、俺も一緒に行きます」

「後悔、しない?」

「しません!」

即答だった。

「だって俺、
お嬢さんが笑ってるほうが好きなんで!」

その言葉に、胸の奥がふっとほどけた。

「……ありがとう、レオ」

そう言うと、レオは照れ隠しみたいに頭をかいた。

「へへ。
それでいいんだよ」

ベンチの上。
太陽みたいな人が、勇気をくれる。
それぞれ違う形で、
少しずつ、同じ場所に集まり始めている気がした。
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