夜明けが世界を染めるころ
私はブティック・グロウを訪れた。
ルイに会うためだ。

「いらっしゃいませ!」

可愛いらしい声に迎えられる。

「あ! ティアナ様!」

サラとエマが、ぱっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。

「エマ、具合はどう?」

「大丈夫です。
あの時は……本当にありがとうございました」

そう言って頭を下げるエマ。
顔色もよく、動きもしっかりしている。
後遺症もなさそうで、胸を撫で下ろした。

「それならよかった」

そこへ、凛として、優しい声が割り込む。

「あら、ティアナちゃんじゃない?」

振り返ると、ルイがこちらを見て微笑んでいた。

「どうしたの?
もしかして……お姉さんに相談かしら?」

その言い方に、少しだけ肩の力が抜ける。

「うん……そうかも」

「ふふ。いいわよ」

ルイは踵を返し、奥へと歩き出す。

「おいで。
ここじゃ落ち着かないでしょう。
ゆっくり話しましょう」

私はその背中を追って、
ブティックの奥へと足を踏み入れた。

柔らかな布の匂いと、
静かな空気。

何から話せばいいのか分からず、言葉を探していると。

「なに?
誰かに告白でもされた?」

「……へ?」

「あら、図星」

楽しそうに微笑むルイ。

「セナちゃん?
それともテオちゃん?」

「えっと……」

答えを迷っていると、ルイは肩をすくめた。

「テオちゃんのほうね。
あの子、ティアナちゃんのこと大好きだもの」

胸が、ちくりと痛む。

「……でも私、ずるいことしたの。
好意に……漬け込んで、お願いごとをした」

正直にそう言うと、ルイは一瞬きょとんとして、それからくすっと笑った。

「それ、ずるいこと?」

「え?」

「そういうのってね、
“惚れた弱み”って言うのよ」

驚いて見つめる私に、ルイは穏やかに続ける。

「ずるくなんかないわ。
むしろね、好きな人からのお願いなんて」

少し身を乗り出して、囁くみたいに。

「男なら、嬉しいものよ」

「……そうかな」

「そうよ」

迷いを包み込むように、きっぱりと。

「大切なのはね、
利用することじゃなくて、
一緒に背負う覚悟があるかどうか」

ルイは、私の目をまっすぐ見た。

「ティアナちゃんは、
その覚悟をちゃんと持ってる顔をしてるわ」

その言葉が、
胸の奥で静かに灯りをともした。
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