夜明けが世界を染めるころ
侍女が案内してくれて扉をノックする。
「どうぞ」
殿下の返事を確認し入った部屋にはソファとテーブル、ベッドが置かれていた。本棚には珍しい本が並び、どれも気になる。ここは殿下の自室なのだろうか。
「失礼します」
ソファに腰を下ろすと、侍女がレオの作ったデザートと紅茶を丁寧に並べてくれた。
私は話をする前に、そっと頭を下げる。
殿下が目を丸くして見つめる。
「どういうつもりだい?」
「その…孤児院でのボランティアの件で、私が使った力について、公言しないでいただきありがとうございます」
「なるほど、あの力のことか。確かに公にされていれば…大変なことになっていただろうね」
「…はい」
「気にしないでくれ。君の騎士…セナと一緒に処理したまでだよ」
やっぱりか…。セナにも気を遣わせてしまったな。
「それに、私が言わなくても他の者から漏れることだってあるかもしれない。
しかし…君の人柄だろう。
その力を知っているのは限られている」
その言葉を聞き、私はは少し安心する。
「ありがとうございます」
殿下はふと視線を上げ、私を真っ直ぐ見つめる。
「さて、どこから話そうか」
「先ほどのデホラ男爵の…あの宝石についてもご存知ですよね?」
殿下は知っているはずだ…
ディラン殿下は頷く。
「そうだ。あれは“魔女の雫”と呼ばれるものだ。単なる装飾品ではない。人の弱さや憎悪、恐れ、絶望――そういった感情を媒介として吸い上げ、力に変える。」
小さく息を飲む。
「集められた力は“魔女の紅血”となり、持つ者に途方もない力を与える。その代わり、理性や心を侵す。人は欲望に飲まれ、宝石と一体化してしまうこともある。デホラの場合は、野心や権力欲が強すぎて、完全に心を乗っ取られた。」
私は眉をひそめ、考え込む。
「じゃあ…浄化することや剣で止めることはできない…?」
殿下は紅茶を一口啜り、冷静に言う。
「魔女の雫の力を封じるには、単純な攻撃では不可能だ。
君が孤児院でやった 共鳴は、そこまで侵食が少なかったからできたもの。
だが今回のように、あそこまで侵食されたものは直接破壊して初めて、止められる。
侵食が行き過ぎたものへ 共鳴を使えば…ティアナ嬢 貴女が持っていかれる」
その言葉にドキッとする。
孤児院でミヤの宝石と共鳴した時、彼女の想いも流れてきた。
私も持っていかれる可能性があったのか…
今更ながら自分のしたことがこわくなった。
「だからこそ…ティアナ嬢 あまり共鳴は使わない方がいい。
わかったね」
殿下の視線が鋭くひかる。
「わかりました」
私が頷くのをみて、殿下の顔が緩む。
「だが…共鳴 についてかかれた 本を君に勧めてしまったのは私だからね。反省もしてる」
肩をすくめる殿下。
確かに古書店にいって殿下の勧めてもらった本の内容にあったものだ。
「それはお構いなく…」