夜明けが世界を染めるころ
集中して本を読んでいたが、どれくらい時間が経ったのだろうか。
ふと視線を落とすと、いつの間にか飲み物が置かれている。
あ、置いてくれてたんだ。
ちょうど喉も渇いていたし、ありがたい。
「いただきます」
「あ、それは――」
殿下が何か言いかけたが、蝋燭の淡い灯りでよく見えないまま、私は口にしてしまった。
甘い葡萄の香りに、ほのかな酸味。
イチゴのような後味もあって、とても美味しい。
……気づけば、全部飲み干していた。
そして私は、この選択を激しく後悔することになる。
体が、ぽかぽかと熱い。
視界が、ぐわんぐわんと揺れる。
(……あれ?)
目の前を見ると、殿下が心配そうな顔でこちらを見ている。
いや、それ以前に――言いたいことが、ずっと胸に溜まっていた気がする。
なんだか、今なら何でも言えそうだ。
勢いに任せて、言ってしまおう。
「ティアナ嬢、大丈夫かい?
それ、私の赤ワインだよ」
「だったら……なんですかぁぁ?」
「あらら」
足元がおぼつかないまま、のらりくらりと立ち上がり、殿下の方へ歩く。
「殿下ぁぁ……」
「……蝋燭の火、気をつけてね」
どうやら、テーブルの上の蝋燭を気にしてくれているらしい。
(そんなの、今どうでもいいのに……)
ソファに座っている殿下の前まで詰め寄る。
「前から思ってたんですけど」
「うん」
「殿下、やることがいちいち回りくどいんですよ!」
少し前屈みになって指を突きつける。
「本だってそうです。どうしてユウリに預けるんですか。直接渡しにくればいいじゃないですか!
……まあ、10年も気づかなかった私が一番アホなんですけど」
勢いで言い切ると、殿下は目を瞬かせ、それから困ったように――いや、楽しそうに笑った。
「今度からは、直接持って行くよ」
「そういうところです!」
なんでそんなに穏やかにニコニコしていられるんだ、この人は。
「殿下って、いつも笑ってますけど……内心、すごく冷めてますよね」
「うーん」
自分の頬を指でかきながら、殿下は少し考える素振りを見せる。
「そうかな」
その仕草すら余裕があって、腹が立つ。
感情を隠して、穏やかに振る舞う。
それ自体は、私も似たところがあるからわかる。
でも殿下のそれは、少し違う。
もっと深いところが、冷たくて暗い。
良い意味でも悪い意味でも、何事にもどこか無頓着で、距離を置いている感じがする。
――まあ、それも仕方ないのかもしれない。
王族という立場。
常に見られ、測られ、利用される世界で生きているのだから、感情を剥き出しにする方が無謀だ。
「殿下の立場なら、全部に本気になるなんて無理ですよね」
少し声のトーンが落ちる。
「取り繕って、感情を隠して……そうしないと生き残れない」
殿下は、そこで初めて笑うのをやめた。
「……ティアナ嬢は、私をよく見ているね」
低く、静かな声。
ふと視線を落とすと、いつの間にか飲み物が置かれている。
あ、置いてくれてたんだ。
ちょうど喉も渇いていたし、ありがたい。
「いただきます」
「あ、それは――」
殿下が何か言いかけたが、蝋燭の淡い灯りでよく見えないまま、私は口にしてしまった。
甘い葡萄の香りに、ほのかな酸味。
イチゴのような後味もあって、とても美味しい。
……気づけば、全部飲み干していた。
そして私は、この選択を激しく後悔することになる。
体が、ぽかぽかと熱い。
視界が、ぐわんぐわんと揺れる。
(……あれ?)
目の前を見ると、殿下が心配そうな顔でこちらを見ている。
いや、それ以前に――言いたいことが、ずっと胸に溜まっていた気がする。
なんだか、今なら何でも言えそうだ。
勢いに任せて、言ってしまおう。
「ティアナ嬢、大丈夫かい?
それ、私の赤ワインだよ」
「だったら……なんですかぁぁ?」
「あらら」
足元がおぼつかないまま、のらりくらりと立ち上がり、殿下の方へ歩く。
「殿下ぁぁ……」
「……蝋燭の火、気をつけてね」
どうやら、テーブルの上の蝋燭を気にしてくれているらしい。
(そんなの、今どうでもいいのに……)
ソファに座っている殿下の前まで詰め寄る。
「前から思ってたんですけど」
「うん」
「殿下、やることがいちいち回りくどいんですよ!」
少し前屈みになって指を突きつける。
「本だってそうです。どうしてユウリに預けるんですか。直接渡しにくればいいじゃないですか!
……まあ、10年も気づかなかった私が一番アホなんですけど」
勢いで言い切ると、殿下は目を瞬かせ、それから困ったように――いや、楽しそうに笑った。
「今度からは、直接持って行くよ」
「そういうところです!」
なんでそんなに穏やかにニコニコしていられるんだ、この人は。
「殿下って、いつも笑ってますけど……内心、すごく冷めてますよね」
「うーん」
自分の頬を指でかきながら、殿下は少し考える素振りを見せる。
「そうかな」
その仕草すら余裕があって、腹が立つ。
感情を隠して、穏やかに振る舞う。
それ自体は、私も似たところがあるからわかる。
でも殿下のそれは、少し違う。
もっと深いところが、冷たくて暗い。
良い意味でも悪い意味でも、何事にもどこか無頓着で、距離を置いている感じがする。
――まあ、それも仕方ないのかもしれない。
王族という立場。
常に見られ、測られ、利用される世界で生きているのだから、感情を剥き出しにする方が無謀だ。
「殿下の立場なら、全部に本気になるなんて無理ですよね」
少し声のトーンが落ちる。
「取り繕って、感情を隠して……そうしないと生き残れない」
殿下は、そこで初めて笑うのをやめた。
「……ティアナ嬢は、私をよく見ているね」
低く、静かな声。