夜明けが世界を染めるころ
いつの間にか、彼女にも執事がついていた。
聞いた話によると、ラピスラズリ伯爵家で長年先代に仕えてきたベテラン執事を祖父に持つユウリという人物らしい。

とても優秀なようで、次期当主となるであろう長男のマルクではなく、ティアナ嬢についたという。

本来なら、次期当主についた方が地位や名声を手に入れられる――いわゆる出世コースだ。
それを捨てたとバカにする者もいたらしいが、どう考えてもティアナ嬢を選んだことは賢明な判断だった。
バカにしていた連中には、少し痛い目に合わせたのは内緒だが。

12歳になったあたりから会話することはおろか、直接出向くこともなくなった。
そして気づけば10年が経っていた。

それでも、彼女の好きそうな本を探しては、執事のユウリに渡してもらうようになった。
どうやら、それがようやく私の仕業だとバレたらしい。

我ながら、まどろっこしい性格だと思う。

彼女を抱えベッドに移動させる。軽すぎる…
ちゃんと食べているのだろうか。
ベッドで寝息をたてる彼女を見つめる。
綺麗なスミレ色で毛先は淡い桃色。まるで夜明けみたいな綺麗なグラデーション。髪をまとめている飾りが、寝るには少し痛そうで、そっと髪を解く。
綺麗な髪がハラハラと解けていく。

寝息をたてて眠る彼女は、とても愛らしかった。


髪が顔にかかり、そっと頬を撫でる。
色白の肌に長いまつ毛。目の下にはクマが見える。相変わらず努力家なようだ。

私の瞳のことを知る者は、数少ない。
祖父と兄、そしてレイだけだ。

私は、エメラルドの瞳も、ルビーのように赤く染まる瞳も、どちらも好きではない。
王位なんて継ぎたいとは思わない。
ただ、中途半端なことをすれば誰もついてこないし、何より彼女がそんな私を好まない。
……とはいえ、少しでも関心を持ってもらえるだけ、まだマシか。

私の赤い瞳をルビーのように綺麗だと言った彼女。
同じ赤い瞳を持つ別の誰かを思い出して、顔を赤くしていた。
中々癪に触る。

「そろそろ、本気を出さないとね」

ぼそりとひとり呟き、彼女の寝息を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
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