夜明けが世界を染めるころ
レイさんの後を追い、裏手の回廊を抜ける。
煙の匂いがまだ残っていて、遠くでは騎士団の指示が飛び交っていた。
その先に――2人の人影が見えた。
お嬢様と、あの男。
サーフェスと名乗っていた人物。
「……お嬢様」
無事なのを確認できたことに、胸が緩む。
だが、次の瞬間、視線は自然と“彼”へと向かっていた。
違和感。
最初に感じたのは、立ち姿だった。
ただの貴族客にしては、あまりにも隙がない。
煙の流れを背にし、自然と出口を確保する位置。
お嬢様を庇うようでいて、同時に周囲全体を見渡している。
――護衛の立ち方だ。
「……?」
さらに、騎士団員たちの反応。
彼らはサーフェスの存在を視界に入れているはずなのに、誰一人として警戒しない。
それどころか、無意識に距離を取り、進路を譲っている。
まるで――
“上位者”がそこにいると知っているかのように。
決定的だったのは、レイさんの一言だ。
「殿下、こちらはもう制圧完了しています」
……殿下?
思考が一瞬、止まる。
レイさんの視線は、迷いなくサーフェスへ向けられていた。
敬意を隠さない、臣下の眼差し。
サーフェスは小さく息をつき、苦笑する。
「やれやれ。やっぱり勘づかれるか」
その声色が、変わった。
軽薄さが消え、低く、よく通る、命令に慣れた声。
「ユウリ、だったね」
名を呼ばれ、背筋が凍る。
「黙っていてくれて助かる。今夜は、まだ“サーフェス”でいたい」
その瞬間、すべてが繋がった。
騎士団の動き。
完璧すぎるタイミング。
宝石を“壊すだけ”という選択。
そして――
お嬢様が、なぜ彼の隣にいるのか。
「……なるほど」
思わず、小さく呟く。
だから、あの人はあんな覚悟の目をしていたのか。
「失礼しました」
私は深く一礼する。
彼はわずかに目を細めた。
「気にするな…今は、彼女の無事が最優先だろう?」
その言葉に、私は頷いた。
サーフェスという仮面の奥で、
この国の王子は、すでに戦場に立っていた。
サーフェスの横にいるお嬢様に近寄り自分のジャケットをかける。
「お嬢様お怪我はございませんね」
「ええ、大丈夫よ。セナは?」
私の近くにいないセナを気にしているようだ。
「大丈夫かと思います」
彼のことだきっと大丈夫だろう。