夜明けが世界を染めるころ
殿下の言葉が静かに余韻を残す中、足音が近づいてきた。

重く、迷いのない足取り。
この状況でそんな歩き方ができる人間は、そう多くない。

「……やっぱり、ここか」

煙の向こうから現れたのは、セナだった。
剣を肩に担ぎ、多少の埃は被っているものの、怪我はなさそうだ。

「セナ」

互いに無事を確認するように、短く視線を交わす。

だが、セナの目はすぐに――
お嬢様の隣に立つ“サーフェス”へと向けられた。

一瞬。
ほんの一瞬だけ、空気が張り詰める。

「……随分と、場違いな位置に立ってるな」

セナの声は低い。
疑念と警戒が、そのまま滲んでいた。

殿下は気にした様子もなく、肩をすくめる。
「護衛役だからね。今夜は」

「護衛?」
セナは鼻で笑う。
「さっきの爆発、あんたの仕業だろ」

核心を突く言葉。

騎士団が動き、宝石が砕け、混乱が収束した。
ここまで揃っていれば、偶然では済まない。

殿下は否定しなかった。
「結果的には、そうなる」

その答えに、セナの視線が鋭くなる。
そして――ユウリへ。

「……ユウリ。まさか」

私は一度だけ頷いた。

「ええ。サーフェスさん――いえ、殿下です」

セナは一瞬、言葉を失った。

それから、短く息を吐く。
「……なるほどな」

剣を持つ手が、僅かに緩んだ。

「だから、騎士団があれだけ綺麗に動いてたわけか。
最初から、全部仕組まれてた」

殿下は静かに答える。
「仕組んだ、というより……終わらせに来たんだ」

その言葉に、セナは眉をひそめる。

「終わらせる、ね。
随分と乱暴なやり方だ」

「でも、殺してはいない」
殿下はお嬢様を一瞥してから、セナを見る。
「それが、君たちの一線だろう?」

沈黙。

セナは数秒考え――
やがて、剣を鞘に納めた。

「……貴方のやり方は好きじゃない。だが、結果は認める」

その視線が、お嬢様へ向く。

「それで?俺たちは、これからどう動く?」

殿下は微かに笑った。

「逃げる。そして、明日の朝には――何もなかった顔で再会しよう」

夜風が、煙を散らしていく。

それぞれが、同じ秘密を抱えたまま。
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