夜明けが世界を染めるころ
殿下の隣に腰掛ける。まだ聞きたいことはある。
「……蝶の会は、どうなったのですか?」
殿下は即答しなかった。
一拍置いてから、事務的な声で答える。
「表向きには、温室設備の事故。それと、一部来客の体調不良だ。宴自体は、昨夜のうちに中止扱いにした」
あくまで“事故”。
あくまで“不運”。
殿下は続ける。
「宝石の影響を受けていた者は、医療班と騎士団が個別に対応している。
記録上は“過労や体調悪化”として処理する」
私は無意識に、紺色のリボンの端を指で弄っていた。
指先に伝わる感触で、ようやく現実をつなぎ止める。
「……壊した宝石は?」
「完全に破壊。あるいは、封印後に正式な手続きを経て処分する。市場に戻ることは、二度とない」
その言葉に、胸の奥がほんの少しだけ軽くなった。
「誰も……大騒ぎしないようにした、ということですか?」
殿下は、私を見る。
「英雄も、罪人も作らない。
恐怖も、熱狂も残さない」
淡々と、だが迷いなく。
「それが、私が選んだ結末だ」
沈黙が落ちる。
薔薇の葉が風に揺れ、かすかな音を立てる。
「……綺麗ですね」
私はぽつりと言った。
殿下が眉を動かす。
「綺麗すぎる、という意味です」
視線を逸らさず、続ける。
「誰も傷つかなかったことにして。
誰も間違えなかったことにして。
全部、なかったことにする。
それでも、あなたは責任を背負う」
殿下は、わずかに口角を上げた。
「よく見ている」
「ええ」
私は頷く。
「だからこそ、逃げていないのもわかります」
しばらくして、私は静かに言った。
「……それなら
私は、あなたの選んだ結末を否定しません」
殿下の目が、ほんのわずかに和らぐ。
「ありがとう」
「……蝶の会は、どうなったのですか?」
殿下は即答しなかった。
一拍置いてから、事務的な声で答える。
「表向きには、温室設備の事故。それと、一部来客の体調不良だ。宴自体は、昨夜のうちに中止扱いにした」
あくまで“事故”。
あくまで“不運”。
殿下は続ける。
「宝石の影響を受けていた者は、医療班と騎士団が個別に対応している。
記録上は“過労や体調悪化”として処理する」
私は無意識に、紺色のリボンの端を指で弄っていた。
指先に伝わる感触で、ようやく現実をつなぎ止める。
「……壊した宝石は?」
「完全に破壊。あるいは、封印後に正式な手続きを経て処分する。市場に戻ることは、二度とない」
その言葉に、胸の奥がほんの少しだけ軽くなった。
「誰も……大騒ぎしないようにした、ということですか?」
殿下は、私を見る。
「英雄も、罪人も作らない。
恐怖も、熱狂も残さない」
淡々と、だが迷いなく。
「それが、私が選んだ結末だ」
沈黙が落ちる。
薔薇の葉が風に揺れ、かすかな音を立てる。
「……綺麗ですね」
私はぽつりと言った。
殿下が眉を動かす。
「綺麗すぎる、という意味です」
視線を逸らさず、続ける。
「誰も傷つかなかったことにして。
誰も間違えなかったことにして。
全部、なかったことにする。
それでも、あなたは責任を背負う」
殿下は、わずかに口角を上げた。
「よく見ている」
「ええ」
私は頷く。
「だからこそ、逃げていないのもわかります」
しばらくして、私は静かに言った。
「……それなら
私は、あなたの選んだ結末を否定しません」
殿下の目が、ほんのわずかに和らぐ。
「ありがとう」