夜明けが世界を染めるころ
浴室の扉を開けると、ふわりと湯気の匂いが漂ってきた。

すでに湯は張られ、白いタオルと着替えが整えられている。

そのそばで、アリスが桶を抱えながら振り向いた。

「お嬢様。もう動いて大丈夫なのですか?」

「うん。だいぶ楽になったよ」

そう答えると、アリスは少しだけ眉を下げた。

「無理はなさらないでくださいね」

「心配かけちゃったね」

「……少し、です」

そう言いながらも、声には安堵がにじんでいる。

アリスは湯の温度を確かめ、湯気の立つ浴槽を指さした。

「熱すぎないよう、ぬるめにしてあります。
長湯は控えてください」

「うん、ありがとう」

タオルを受け取ると、アリスは一歩下がった。

「終わったらお声がけください。
髪を乾かす準備もしてありますので」

「ほんとに至れり尽くせりだね」

そう言うと、アリスは少し困ったように微笑んだ。

「……それが、私の役目ですから」

静かに扉が閉まり、ひとりになる。

湯に身体を沈めると、じんわりと疲れがほどけていった。

(あぁ……生き返る……)

肩まで浸かるのは我慢して、深呼吸をひとつ。

さっきまでの騒がしさが、遠い出来事のように感じられた。

しばらくして湯から上がり、用意されていた衣に袖を通す。

軽くて柔らかい。

髪をまとめ終えた頃、扉の外から控えめな声がした。

「お嬢様、体調はいかがですか?」

「大丈夫。ありがとう、アリス」

「それなら……よかったです」

ほっとしたような返事に、胸が少しあたたかくなる。
アリスに髪を乾かしてもらい、カーディガンを羽織る。
ユウリにも一言声をかけてから散歩に出てきた。

ついてくるといったけど、すぐ近くだけと告げたので納得してくれた。
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