夜明けが世界を染めるころ
彼は小さく息を吸い、ゆっくりと踏み出した。

剣が描く軌跡は、無駄がなく、静かで。

まるで彼自身の誠実さを、そのまま形にしたようだった。

(やっぱり……好きだな)

剣も、
それを振る人も。

そこへ、

「――大丈夫ですかー??」

ぱたぱたと駆け寄ってきたのは、アレンだ。
ふわふわな髪を揺らしながら、心配そうにこちらを覗き込む。

「お嬢様、もう動いて平気なんですか?
お医者様ちゃんと許可出してました?」

「うん。短時間だけって」

「よかった……」

本気で安心したように、胸をなで下ろす。

まるで子犬みたいに、感情がそのまま顔に出る。

その後ろから、もう一人がゆったりと歩いてきた。

「はは、そんなに慌てなくても大丈夫そうだな」

穏やかな声で笑ったのはロベルトだった。

背も高く、落ち着いた雰囲気なのに、表情はいつも明るい。

「顔色もだいぶ戻ってますね。
無理さえしなければ問題なさそうだ」

「2人ともありがとう。それよりどうしてここに?」

「お嬢様が散歩に出たって聞いて!」

アレンはぴしっと背筋を伸ばす。

「気になって探しにきたんだよな」

ロベルトも頭をかきながら笑う。

「だからお嬢様、何かあったらすぐ言ってください。
遠慮はいりませんよ」

「それは心強いね」

そう返すと、2人とも少し照れたような顔になる。
そのとき、アレンの視線がセナの手に止まった。

「あっ……セナ副団長その包帯どうしたんですか!?」

「大したことない」

「ほんとですか!? それ、痛くないんですか!?」

「問題ない」

「でも包帯きれいに巻いてあります!」

「……お嬢様が手当してくれた」

「えっ!」

アレンの目がきらきらと輝く。

「すごい……!
セナ副団長よかったですね!」

「喜ぶな」

ロベルトはにこやかに頷いた。

「それは心強いな!
剣士の手は命ですから」

「そうですね」

セナは少し照れたように視線を逸らす。


「お嬢様」

ロベルトが柔らかく声をかける。

「少しお疲れではありませんか?」

「……うん、ちょっとだけ」

正直に言うと、アレンがすぐに反応した。

「じゃあ休みましょう!
無理は絶対だめです!」

「声が大きい」

「す、すみません!」

即座に反省。

ロベルトは苦笑しながら言った。

「じゃあ、みんなで中庭のベンチまで行きましょう。
日陰で風も通りますし」

「それがいい」

セナも頷き、4人で歩き出した。
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