夜明けが世界を染めるころ
セナの肩から赤い染みが広がっているのに気づく。
「……っ!」

服の裾を手で引き裂く。布の裂ける音が、湖の静けさの中で響く。
裂いた布をセナの深い傷口に押し当てる。血がじわりと染み込み、暖かさが伝わる。

「セナ…!しっかりして、お願い…!」
涙が滲む目でセナを見下ろす。手が震える。
セナはかすかに微笑み、弱々しく首を振る。

「お嬢さま……もう、いいです」
声がかすれても、口元の力強さは消えない。

「だめよ、まだ…まだここで…!」
私は必死で押さえつけるように布を傷口に当て、心臓の音が早まる。

「……ティアナ」
セナの声は小さく、でも確固たる響きがあった。
その眼差しは、私に命じるように真っ直ぐで、少しだけ笑っていた。

「…これ以上、喋らないで」
いやだ、こんなのいや。
喉の奥で言葉にならない叫びが詰まる。

けれど、セナはゆっくりと瞬きをして、
私の顔を確かめるように見つめていた。

その瞳の奥に、痛みも恐怖もない。

あるのは――
覚悟だけだった。

彼の指が、かすかに私の手に触れる。

その温度が、急速に遠ざかっていくのを感じて、
胸が締めつけられた。

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