夜明けが世界を染めるころ
ガイルと距離を取り、会場の奥へ向かおうとしたところで、視線の先に見慣れた姿があった。
「……陛下」
思わず足を止め、姿勢を正す。
ジョルジュ陛下は、穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ディラン。婚約者は、もう帰らせたのか?」
唐突な問いだった。
だが、責める調子ではない。
「はい」
ディランは静かに答える。
「ゆっくりご挨拶できず、申し訳ありません」
「いや、いい」
陛下は軽く首を振った。
「私も遅れて、つい先ほど来たばかりだからな」
その言葉に、わずかに安堵する。
――だが、次の一言が胸に引っかかった。
「……急ぎなさい」
命令とも、忠告とも取れる声色。
一瞬だけ迷い、それでも深く頭を下げた。
「はい」
顔を上げたとき、陛下の視線が会場の出口へ向いているのが見えた。
――ティアナが去った方向だ。
(……気のせい、か)
そう思おうとしたが、胸の奥に小さな棘のような違和感が残る。
「若い者の力は貴重だ」
陛下は独り言のように言った。
「特に……大きな可能性を秘めた者はな」
「……」
言葉の意味を測りかねたまま、いまはそれ以上踏み込まなかった。
「失礼いたします」
再び一礼し、踵を返す。
背後から向けられる視線を、今は深く考える余裕がなかった。
◇
会場の外れで、レイと合流する。
「状況はどうだ?」
「予定通りです」
レイは即答した。
「ティアナ様とセナ副団長は先に離脱。
ただガイル側の動きが予想より早いです」
ディランは奥歯を噛みしめる。
(やはり……)
「全員に伝えろ。俺も動く」
「了解しました」
短い会話。
それだけで十分だった。
私は一度だけ、会場の方を振り返る。
煌びやかな灯りの奥に、ジョルジュ陛下の姿はもう見えない。
(……今は考えるな)
守るべきものが、はっきりしている。
「――必ず、守る」
誰に聞かせるでもなく呟き、夜の闇へと踏み出した。
その背で、知らぬまま――
最も危険な視線が、すでに彼を捉えていることを。
「……陛下」
思わず足を止め、姿勢を正す。
ジョルジュ陛下は、穏やかな微笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「ディラン。婚約者は、もう帰らせたのか?」
唐突な問いだった。
だが、責める調子ではない。
「はい」
ディランは静かに答える。
「ゆっくりご挨拶できず、申し訳ありません」
「いや、いい」
陛下は軽く首を振った。
「私も遅れて、つい先ほど来たばかりだからな」
その言葉に、わずかに安堵する。
――だが、次の一言が胸に引っかかった。
「……急ぎなさい」
命令とも、忠告とも取れる声色。
一瞬だけ迷い、それでも深く頭を下げた。
「はい」
顔を上げたとき、陛下の視線が会場の出口へ向いているのが見えた。
――ティアナが去った方向だ。
(……気のせい、か)
そう思おうとしたが、胸の奥に小さな棘のような違和感が残る。
「若い者の力は貴重だ」
陛下は独り言のように言った。
「特に……大きな可能性を秘めた者はな」
「……」
言葉の意味を測りかねたまま、いまはそれ以上踏み込まなかった。
「失礼いたします」
再び一礼し、踵を返す。
背後から向けられる視線を、今は深く考える余裕がなかった。
◇
会場の外れで、レイと合流する。
「状況はどうだ?」
「予定通りです」
レイは即答した。
「ティアナ様とセナ副団長は先に離脱。
ただガイル側の動きが予想より早いです」
ディランは奥歯を噛みしめる。
(やはり……)
「全員に伝えろ。俺も動く」
「了解しました」
短い会話。
それだけで十分だった。
私は一度だけ、会場の方を振り返る。
煌びやかな灯りの奥に、ジョルジュ陛下の姿はもう見えない。
(……今は考えるな)
守るべきものが、はっきりしている。
「――必ず、守る」
誰に聞かせるでもなく呟き、夜の闇へと踏み出した。
その背で、知らぬまま――
最も危険な視線が、すでに彼を捉えていることを。