夜明けが世界を染めるころ
コンコン――
控えめで、遠慮がちなノック音。

「……どうぞ」

扉が静かに開く。

「ティアナちゃん……」
「お嬢様……」

聞き慣れた、やわらかな2つの声。

「よかった……ほんとうによかった。目が覚めたのね」

そこに立っていたのは、ルイとアリスだった。

いつもの余裕ある微笑みではなく、
どこか張りつめていたものがほどけたような、心から安堵した表情。

次の瞬間、ルイは迷いなく歩み寄り――
そっと、私を抱きしめた。

強くもなく、離れすぎてもいない。
壊れ物を扱うような、慎重であたたかな抱擁。

「……もう、心配させるんだから」

耳元で、息混じりに囁く。

「目を覚まさないって聞いたとき、
胸がぎゅっと苦しくなったわ」

背中を撫でる手は、驚くほど優しい。

「あなたはね、思っている以上に
たくさんの人の“居場所”になってるのよ」

そっと身体を離し、両頬に手を添える。

「だから……戻ってきてくれて、ありがとう」

その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。

その背後から、アリスが一歩、静かに近づいた。

ルイの腕が離れたのを見計らうように、
控えめに――けれど確かな温度で。

「……お嬢様」

名前を呼んでから、
彼女はぎゅっと、静かに抱きしめてくる。

包み込むようなルイの抱擁とは違い、
少し震えを含んだ、必死に感情を抑えた力。

「……本当に、よかったです」

額を肩に預け、声を落とす。

指先が、私の背中の布をきゅっと掴んだ。

「お嬢様は、いつも無理をなさいますから……
気づかないうちに、遠くへ行ってしまうのではと……」

一瞬、言葉に詰まり。

「……怖かったです」

その声は、
いつもの完璧で冷静な侍女のものではなかった。

「ごめんね。心配かけて」

私はそっと、アリスの背中を叩く。

「……でも、こうして触れられて、本当に安心しました。」

顔を上げると、いつもの穏やかな微笑み。
けれどその瞳の奥には、まだ拭いきれない想いが残っていた。

「ふふ。アリス、ずいぶん素直だね」

「……今だけです」

「今だけ、か」

私がくすりと笑いながらいうと、ルイが腕を広げる。

「じゃあ、今だけ特別よ。
本当にヒヤヒヤさせるんだから」

2人まとめて、やさしく包み込むように抱き寄せた。

「……私、そんなに危なっかしい?」

抱きしめられたまま、ぽつりと零す。

自分では精一杯考えて、選んで、動いてきたつもりだった。
けれど、こうして皆の顔を見ると――少しだけ不安になる。

その問いに、間を置かず。

「ええ、世界一」

ルイが即答した。

あまりに迷いのない声に、思わず瞬きをする。

「そんな即答なの……?」

「ええ。即答よ」

肩に回した腕を少し強め、くすりと笑う。

「自分の身より他人を優先して、
傷ついても笑って、平気なふりをするでしょう?」

「それを危なっかしいと言わずに、何と言うの」

「……う」

言い返せず、視線を逸らすと、

「ほら」

と、アリスが小さく息をついた。

「ですから、皆が目を離せなくなるのです」

「お嬢様は、無自覚すぎます」

「そんなに……?」

「はい」

きっぱり。

「ご自身の価値を、まったく理解なさっていません」

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