夜明けが世界を染めるころ
セナside

ティアナの言葉は、胸の奥に静かに沈んでいった。

初恋だった。
ずっと好きだった。
その事実が、痛いほど伝わってくる。

……だからこそ。

俺は、ゆっくり息を吸って、彼女の背中に回していた手を――離した。

「……ティアナ」

名前を呼ぶ声は、もう震えていなかった。
不思議と、静かだった。

「さっきの共鳴で……少し、わかったんだ」

彼女が顔を上げる。
涙で濡れた瞳が、まっすぐ俺を見る。

「貴女の魔力の揺れ……
俺に向いてるものじゃない」

責めるような言い方にはしない。
事実を、事実として置くだけ。

「……別の誰かに向いてる」

一瞬、ティアナの瞳が揺れた。

「否定しなくていい」

すぐに言葉を重ねる。

「それが悪いことだなんて、思ってない」

小さく、笑う。

「初恋が、ずっと同じ形で続くとは限らないって……
俺も、騎士になる前に学んだからさ」

視線を落とす。

「ティアナはさ……
誰かを惹きつける光を持ってる」

「俺だけを見る貴女より、
前を向いて、迷って、それでも進もうとする貴女の方が……」

少しだけ、言葉を選んで。

「……俺は、好きだ」

沈黙。

「だから」

顔を上げて、はっきり言う。

「俺は身を引く」

驚いたように、ティアナが息を呑む。

「貴女が選ぼうとしてる気持ちを、
俺が縛る資格はない」

それでも。

一歩だけ、近づく。

声を落として、最後の本音を置く。

「……でもな」

「これだけは、奪わないでくれ」

ゆっくり、確かめるように言う。

「俺は、ずっとティアナが好きだ」

「見返りも、約束もいらない」

「ただ……
好きでいることだけは、俺の自由だろ?」

穏やかに、優しく微笑む。

「最後に気持ちを伝えられて……
それで、十分だ」

そっと、彼女の頬に触れる。
キスはしない。
それはもう、“越えない”と決めたから。
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