夜明けが世界を染めるころ
沈黙。
胸が締めつけられるほど、静かな時間。
やがてトワは、覚悟を決めたように息を吸った。
「だから――」
その瞳が、真っ直ぐにティアナを射抜く。
「僕を、殺して」
一瞬、意味を理解できなかった。
「トワ……?」
「君の手で」
まるで、お願い事のように。
「封じ手としてじゃなく。
実験体としてでもなく」
「“君の弟だった僕”として」
刃を持つ手が、ゆっくりと下がる。
「世界のためじゃない」
「研究のためでもない」
「……僕自身が、選んだ終わりだ」
喉が震えた。
「このまま生きたら、いつか本当に君を傷つける」
「その時、僕はもう“人”じゃなくなる」
だから、と。
「その前に――終わらせて」
沈黙が落ちる。
粉塵が、光の中を静かに舞う。
「……やだ」
かすれた声が、震えながら零れた。
「やだ……」
ディランから離れで無意識に前へ出る。
「ごめんね……」
唇が震え、言葉が途切れる。
「気づかなかった……
こんなに近くにいたのに」
「なんで私は……」
次の瞬間。
私はトワを強く抱きしめていた。
小さな体が、腕の中で僅かに強張る。
「殺さない」
震える声で、はっきりと言う。
「誰かを救うために、
誰かを殺すなんて――私は選ばない」
トワの目が、大きく見開かれた。
「……ティアナ、様……」
「あなたは弟よ」
胸に顔を埋め、囁く。
「世界が何と言おうと」
長い沈黙のあと。
少年の腕が、そっと彼女の背に回った。
私はゆっくりと言葉を紡いだ。
「……学校に行くって、言ったじゃない」
トワの肩が、わずかに揺れる。
「きっと友達もできて、穏やかで楽しい日々が待ってるはずなのに…」
胸の奥に、熱が込み上げる。
「そんな未来を――
“なかったこと”になんて、できない」
そっと、背中に回した腕に力を込める。
「この先の未来も、トワ」
静かな声で、はっきりと。
「あなたと一緒にいたい」
少年の呼吸が、詰まる。
「あなたは……ずっと、私の弟よ」
震えながらも、言い切った。
「血がつながってなくてもいい。
世界がどう定義しても関係ない」
「大人びてて、繊細で……」
小さく笑う。
「でも、本当はすごく優しくて」
「誰よりも人の痛みに気づいてしまう、
私の――大切な弟」
トワの額が、彼女の肩に触れた。
「……そんなの」
声が、泣き笑いになる。
「反則だよ……」
指先が、ぎゅっと彼女の服を掴む。