夜明けが世界を染めるころ
私を世話してくれたのはナタリーさんだ。
もう80歳近いので施設にいるけど、その人がよく言ってた。

【女だからって諦めちゃだめですよ!知識や経験は貴方の武器になる。なんでも学びなさい】

その言葉がずっと私の中にあるから、とにかく挑戦しようと思える。

フリルのついたブラウスに上質なジャケット、ロングスカートには控えめなフリル。腰のくびれにあしらわれたリボンを、アリスが手際よく整えてくれる。

化粧をしながら、アリスが口を開いた。
「お嬢様の髪はスミレ色で毛先は桃色、夜明けみたいにとても綺麗です。瞳も深い碧、肌も白くて素敵ですが、寝不足で少しカサついていますね。目の下のクマも気になります。素材がいいからといって、睡眠を疎かにしてはいけませんよ」

鏡に映る私は、母マリアンヌとは似ていない。
だからだろうか……ときどき、そんな噂を向けられた。

父には、他に女がいたのではないかと。

けれど伯爵家の当主であれば、
それくらいは珍しくないことだとも言われた。

……本当かどうかは、わからないけれど。


アリスが手際よく化粧を施し、くたびれた顔が美しく彩られる。髪は器用にサイドを編み込み、ハーフアップに仕上げてくれた。ドレスと同じ色のシルクのリボンも添えられ、全体が華やかにまとまる。

「出来ましたよ。今日も完璧で、とてもお綺麗です」
清々しいほど褒めるアリスに、鏡越しで笑顔を返す。

「ありがとう。これで完璧にこなせるわ」

女だからと侮られないように、手を抜かず、すべてをこなさなくては。
ラピスラズリ伯爵家としての務めを果たす以上、家柄に泥を塗るわけにはいかない。

そのとき、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」
と声をかけると、扉が静かに開く。

「失礼いたします。少し早いですが、馬車の準備が整っております」
丁寧にお辞儀するユウリ。

「ありがとう、ユウリ」

「いえ。今日もお綺麗です、お嬢様。それでは参りましょうか」

「ええ」
ユウリの後に続き、私は玄関へ向かった。
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