夜明けが世界を染めるころ
ディランside

「オーウェン団長、ここは君の出身だったね」

「はい」

ここは双輝アレキサンドライト王国にも近く、騎士団の中にはここの孤児院出身者もいる。後継のいない貴族が養子として迎えることもあるのだから、騎士団と孤児院のつながりは侮れない。

さて、蒼紋ラピスラズリ伯爵家のマルクがこのボランティアを取り仕切ると聞いたが、どうにも気がかりだ。王国騎士団にもこの孤児院出身者がいる。もしマルクが雑なことをすれば、王国と蒼紋ラピスラズリ伯爵家との関係の悪化もありうる。

あれが次期当主になったら、蒼紋ラピスラズリ伯爵家は終わるだろう。教養もなく、努力もしない。どうにかして次期当主の座から退かせ、ティアナ嬢を当主に据えたほうが、領民や国のためになるはずだ。

一週間前の騒動で、デホラとその娘ニーナは財産も地位も剥奪され、辺境の地へ送られた。正直、毒殺未遂の罪で死刑にしてもよかったと思う。しかし、それではティアナ嬢の心を傷つける。あえて手を下さず、結果を見守ることにした。

思い返せば、10年前から私が密かに渡していた本が、今や執事によってティアナ嬢に届けられていたと知り、さぞ驚いただろう。
口の堅そうな執事も、10年の時を経てそろそろ時効と判断したのだろうか。
しかし、あの執事は誠実で、何よりティアナ嬢への忠誠心が強い。彼女を守ろうとするその心意気は、何者にも揺るがない。
良い執事だ。


クラリス夫人の誕生日パーティーでは、わざわざ私の後を追いかけてきてくれたことに、思わず感動してしまった。
ゲストルームに入ったあと、こっそりベランダの鍵を開けておくと、案の定、そこからやってきてくれた。
私が毒殺されそうと心配して止めようとしてくれたのは嬉しかったな。
ただ揉め事に巻き込んでしまったことは申し訳なかったが。


何よりも、首を傾げて潤んだ瞳でこちらを見つめられた瞬間には、抱きしめたい気持ちが抑えきれなかった。しかし、耐えた自分を少しだけ褒めてやりたいと思う。

他の令嬢からよく擦り寄られたことはあったが、正直、1ミリもときめいたことはなかった。けれど、興味のある令嬢からされると、心の反応はまったく違うものだ。

「可愛かったな……」
ぼそっと口に出てしまった。

「何か言いましたか、殿下?」

「いや、なんでもないよ」

涼しげな顔をし返事をする。
馬車を近くに止めてもらい、孤児院の前までやって来る。

「これは……」
「大盛況だね」

様子を見ていると、整理券を見せてから食事を受け取っている。上手くやっているようだ。
賑わってはいるが混乱はなく、すべてがスムーズに運営されている。
< 82 / 519 >

この作品をシェア

pagetop