夜明けが世界を染めるころ
あの日から、ティアナは時々、工場の様子を見に来ていた。
執事を連れ、騎士に囲まれて。
けれど彼女自身は、変わらなかった。
誰かが困っていれば立ち止まり、
誰かが声を上げれば、必ず耳を傾ける。
俺は、その少し後ろに立つことが多かった。
(……不思議だ)
あんなに小さいのに、
あんなに強い。
剣を持っているわけでも、
怒鳴るわけでもないのに、
人は彼女の言葉に従う。
――守られているのは、街だけじゃない。
俺も、だ。
ある日、ティアナがふと振り返った。
「セナ」
「な、なんだ」
名前を呼ばれるだけで、胸が少しだけ跳ねる。
理由は、分からない。
「あなた、騎士を目指すって言ってたわよね」
「ああ」
「どうして?」
俺は、少し考えた。
強くなりたい。
声を守りたい。
それも、全部本当だ。
でも――
「……最初に、手を引いてくれたのが、
ティアナだったからだ」
彼女は目を瞬かせた。
「私?」
「ナイフを持ってた俺を、止めたのはあんただ」
あの時。
怒りで全部を壊そうとしていた俺に、
「まだね」と言った声。
もし、あれがなかったら。
俺はきっと、戻れなかった。
「だから……」
言葉が、少し詰まる。
「俺は、
ティアナの“騎士”になりたい」
剣を振るうためじゃない。
命令を聞くためでもない。
彼女が正しいと思うことを、
最後まで守れる存在になりたい。
そういう意味だ。
ティアナは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと微笑む。
「……それは、光栄ね」
からかうでもなく、
軽く流すでもなく。
「でも、覚えておいて」
彼女は真剣な目で言った。
「私の騎士になるなら、
私だけを守るんじゃだめよ」
「分かってる」
即答だった。
「ティアナが守ろうとするもの全部を、守る」
その言葉に、彼女は少しだけ驚いた顔をして、
それから――ほんのり頬を赤くした。
それが、
俺の初恋だった。
けれどそれは、
手を繋ぎたいとか、
一緒にいたいとか、
そんな言葉になる前の感情。
「この人の剣でありたい」
ただ、それだけの想い。
俺はまだ、12歳。
彼女は、8歳。
恋なんて、分からない。
それでも、この気持ちだけははっきりしている。
――いつか本当に、
ティアナ・ラピスラズリの騎士になる。
彼女の隣に立ち、
彼女の正義を、守るために。
それが、
セナという少年の、最初の誓いだった。
執事を連れ、騎士に囲まれて。
けれど彼女自身は、変わらなかった。
誰かが困っていれば立ち止まり、
誰かが声を上げれば、必ず耳を傾ける。
俺は、その少し後ろに立つことが多かった。
(……不思議だ)
あんなに小さいのに、
あんなに強い。
剣を持っているわけでも、
怒鳴るわけでもないのに、
人は彼女の言葉に従う。
――守られているのは、街だけじゃない。
俺も、だ。
ある日、ティアナがふと振り返った。
「セナ」
「な、なんだ」
名前を呼ばれるだけで、胸が少しだけ跳ねる。
理由は、分からない。
「あなた、騎士を目指すって言ってたわよね」
「ああ」
「どうして?」
俺は、少し考えた。
強くなりたい。
声を守りたい。
それも、全部本当だ。
でも――
「……最初に、手を引いてくれたのが、
ティアナだったからだ」
彼女は目を瞬かせた。
「私?」
「ナイフを持ってた俺を、止めたのはあんただ」
あの時。
怒りで全部を壊そうとしていた俺に、
「まだね」と言った声。
もし、あれがなかったら。
俺はきっと、戻れなかった。
「だから……」
言葉が、少し詰まる。
「俺は、
ティアナの“騎士”になりたい」
剣を振るうためじゃない。
命令を聞くためでもない。
彼女が正しいと思うことを、
最後まで守れる存在になりたい。
そういう意味だ。
ティアナは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと微笑む。
「……それは、光栄ね」
からかうでもなく、
軽く流すでもなく。
「でも、覚えておいて」
彼女は真剣な目で言った。
「私の騎士になるなら、
私だけを守るんじゃだめよ」
「分かってる」
即答だった。
「ティアナが守ろうとするもの全部を、守る」
その言葉に、彼女は少しだけ驚いた顔をして、
それから――ほんのり頬を赤くした。
それが、
俺の初恋だった。
けれどそれは、
手を繋ぎたいとか、
一緒にいたいとか、
そんな言葉になる前の感情。
「この人の剣でありたい」
ただ、それだけの想い。
俺はまだ、12歳。
彼女は、8歳。
恋なんて、分からない。
それでも、この気持ちだけははっきりしている。
――いつか本当に、
ティアナ・ラピスラズリの騎士になる。
彼女の隣に立ち、
彼女の正義を、守るために。
それが、
セナという少年の、最初の誓いだった。