もう一度、好きになってもいいですか?

恋って怖いものじゃないの?

放課後の校門前。

夏の陽射しはまだ眩しいけど、少しだけ風が涼しくなってきていた。

生ぬるい風が、ポニーテールで晒している私の首を舐めた。

制服のリボンを直しながら歩いていると、見慣れた背中がこちらに手を振ってくる。


「美咲!」


フェンスの外に立っていたのは碧だった。

白いシャツの袖をラフにまくり、スポーツバッグを肩に引っかけている。


きっとバスケの練習を終えたばかりなのだろう。
髪の先に残る汗が夕陽にきらめいていた。

周囲の女子たちが「かっこよくない?」と小声で囁き合う。


それに気づいた碧はおどけて手を振り返す。


……そういうところが、昔から変わらない。
みんなを笑わせる“太陽”みたいな碧。

もやっとする気持ちを抑え込みながら、碧の元へ駆け寄る。

(でも私だけは知ってるんだ。
 無邪気な笑顔の奥に、時々ふっと影が差すのを)

そんなことを考えていたら——。


「美咲ー!」

「待った?」


今度は心葉が悠翔くんを連れて駆け寄ってきた。

二人は自然に手を繋いでいた。

けれど、心葉はそのことにまだ慣れていないのか、頬を赤らめて俯いている。


「んーん、大丈夫!」



心葉は、「よかったー」と答えながら、ちらりと悠翔くんを見上げる。

彼は照れたように笑いながら、彼女の手をぎゅっと握り直した。


その仕草があまりに自然で、見ているだけで胸がくすぐったくなる。


心葉の耳まで赤くなっているのがわかって、余計に「幸せそうだな」って思った。


(……いいな。こんなふうにまっすぐ誰かを想えて)


気づけば、羨望にも似たため息が漏れていた。


「なに? 羨ましい?」


横から覗き込んできた碧の声に、肩がびくっと跳ねる。


「えっ……ち、違うし!」
思わず声が裏返った。


「べ、別に、そういうのじゃないから!」


慌てて言葉を重ねるけど、碧はにやりと笑っている。


「ふーん? 美咲がそう言うなら、信じるけど」


軽く受け流すような調子。

でも、彼の瞳がほんの一瞬だけ真剣に揺れたのを私は見逃さなかった。

胸の奥がきゅっと締めつけられる。

心葉みたいに誰かの隣で顔を赤らめる勇気が、どうして自分にはないんだろう。


「……恋って、怖いものじゃないのかな」


気づけば、口からそんな言葉がこぼれていた。

風に溶けてしまうくらい小さな声。

けれど、隣にいた碧には届いてしまったらしい。


「……美咲?」


呼びかけられて、慌てて首を振る。



「な、なんでもない! 今の忘れて!」



笑顔を作って誤魔化す。
碧はそれ以上何も言わなかった。
ただ、探るような視線を私に残して。

沈む夕陽のオレンジが、長い影を落としていく。

その影の中で、私の胸はざわざわと落ち着かないままだった。


(恋は怖いよ。だって……)


簡単に人を変えてしまう。

言葉にならない思いを抱えたまま、私は二人の後ろ姿を追って歩き出した。
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