もう一度、好きになってもいいですか?

恋の扉は閉じたまま

母さんの言葉が頭に残って離れない。


 ——「結局失敗して泣きつく先は美咲だもの」


 私は母さんの“支え”なんかじゃなく、ただの愛情を感じるための、代用品だったんじゃないか。
 そんな考えに胸がきしむ。

 気づけば、手はスマホを握っていた。
夜中の画面に浮かぶ文字は、指が勝手に打ったものだった。

______

saki._.days
碧……私、恋が怖いの。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 送信してしまった瞬間、心臓がぎゅっと縮まった。
後悔して削除しようとしたけど、既に既読がついてしまっていて。
…だけど、返事は来なかった。

碧はすぐに返信を送ってくれる。
それを見て、いつも元気がでるのに…

( やっぱり、失望されちゃったかな… )

ベットに仰向けになり、目を擦る。
擦った手は少し湿っている気がする。

 数分後——。

ピーンポーンッ! ピーンポーンッ!

 玄関のチャイムが激しく鳴り響く。


「美咲! 開けろ!」


 ……碧!?

 驚いて階段を駆け下り、ドアを開けると、そこには息を切らして立っている碧の姿があった。

 制服のまま、靴も泥で汚れている。
 ----きっと走ってきたんだ。


「……なんで来たの?」

「DM見て……
いても立ってもいられなかったんだよ!」


 碧は靴も脱ぎ捨てるようにして上がり込み、私の肩を掴んだ。

 手が震えていて、その必死さが伝わってくる。


「美咲、何があった?」


 その目を見た瞬間、張りつめていたものがほどけていった。

 母さんのこと、何度も恋をしては別れて、泣きつかれてきたこと。

 それを支えるうちに、“恋は壊れるもの”だと信じ込むようになったこと。

 ぽつぽつと、言葉が漏れ出す。

 言いながら涙が溢れて止まらなくなり、私は顔を両手で覆った。


「ごめん……
 こんなの、言ってもどうにもならないのに」

「謝るな」


 碧は即座に言い返し、私を抱き寄せた。
 胸に顔を押しつけられると、心臓の鼓動が速く伝わってくる。


「……美咲が怖いって思うのは当たり前だよ。
 そう言うの、ずっと見てきたんだから。
 でもな……俺は美咲を泣かせたりしない。
 迷惑だなんて、思わない。
 だから、だから…嫌な事があったら、頼ってくれ」


 優しい言葉。
 でも、怖い。

“信じる”って、母さんも何度も言ってきたのを見てきた。

 信じたら、また傷つくかもしれない。


「……碧、でもっ…私まだっ」


 声が震えて、涙がまた溢れる。
 碧の腕の中で、私は小さな子どもみたいに泣きじゃくった。
 碧は否定せず、ただ背中をさすってくれる。


「……それでもいい。
信じられなくてもいい。
俺は美咲が信じれるようになるまで…美咲のそばにいるから」


 夜の静けさの中で、その言葉だけがはっきりと残った。
 胸の奥が少しあたたかくなったのに、同時に怖さも消えない。

 碧の腕の中で、私は目を閉じた。

“恋”という言葉の扉は、まだ開けることができないまま。
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